001　秋の田のかりほの盧の苫をあらみ我が衣手は露にぬれつつ　　　　　　天智天皇 002　春過ぎて夏来にけらし白妙の衣ほすてふあまの香久山　　　　　　　　持統天皇 003　足引の山鳥の尾のしだり尾の長々し夜を独りかも寝ん　　　　　　　　柿本人丸 004　田子の浦にうちいでてみれば白妙の富士の高嶺に雪はふりつつ　　　　山辺赤人 005　奥山に紅葉ふみわけ鳴く鹿の声きくときぞ秋はかなしき　　　　　　　猿丸大夫 006　鵲のわたせる橋におく霜の白きをみれば夜ぞ更けにける　　　　　　　中納言家持 007　天の原ふりさけみれば春日なる三笠の山に出でし月かも　　　　　　　安倍仲麿 008　我が盧は都のたつみしかぞ住むよを宇治山と人はいふなり　　　　　　喜撰法師 009　花の色はうつりにけりないたづらに我が身よにふるながめせしまに　　小野小町 010　これやこの行くも帰るも別れては知るも知らぬも逢坂の関　　　　　　蝉丸 011　わたのはら八十島かけて漕ぎ出でぬと人には告げよあまの釣舟　　　　参議篁 012　あまつ風雲のかよひ路吹きとぢよ乙女の姿しばしとどめん　　　　　　僧正遍昭 013　つくばねの峰より落つるみなの川恋ぞつもりて淵となりぬる　　　　　陽成院 014　陸奥のしのぶ文字ずり誰ゆゑに乱れそめにし我ならなくに　　　　　　河原左大臣 015　君がため春の野に出でて若菜つむ我が衣手に雪はふりつつ　　　　　　光孝天皇 016　立ち別れ因幡の山の嶺におふるまつとし聞かば今帰りこむ　　　　　　中納言行平 017　千早ぶる神代もきかず立田川からくれなゐに水くくるとは　　　　　　在原業平 018　住の江の岸による波よるさへや夢の通ひ路人めよくらむ　　　　　　　藤原敏行 019　難波潟みじかき葦の節のまもあはでこの世をすぐしてよとや　　　　　伊勢 020　わびぬれば今はた同じ難波なる身をつくしても逢はむとぞ思ふ　　　　元良親王 021　今こんといひしばかりに長月の有明の月をまちいでつるかな　　　　　素性法師 022　吹くからに秋の草木のしほるればむべ山風をあらしといふらん　　　　文屋康秀 023　月みれば千々にものこそかなしけれ我が身ひとつの秋にはあらねど　　大江千里 024　このたびは幣もとりあへず手向山紅葉の錦神のまにまに　　　　　　　菅家 025　名にしおはば逢坂山のさねかづら人に知られでくるよしもがな　　　　三条右大臣 026　小倉山みねのもみぢば心あらば今ひとたびの御幸またなん　　　　　　貞信公 027　みかのはらわきて流るる泉川いつ見きとてか恋しかるらむ　　　　　　中納言兼輔 028　山里は冬ぞさびしさ増りける人めも草もかれぬとおもへば　　　　　　源宗于 029　心あてに折らばや折らむ初霜の置きまどはせる白菊の花　　　　　　　凡河内躬恒 030　有明のつれなく見えし別れより暁ばかり憂きものはなし　　　　　　　壬生忠岑 031　朝ぼらけ有明の月と見るまでに吉野の里にふれる白雪　　　　　　　　坂上是則 032　山川に風の懸けたるしがらみは流れもあへぬ紅葉なりけり　　　　　　春道列樹 033　ひさかたの光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ　　　　　　　紀友則 034　誰をかも知る人にせむ高砂の松も昔の友ならなくに　　　　　　　　　藤原興風 035　人はいさ心も知らず古郷は花ぞ昔の香ににほひける　　　　　　　　　紀貫之 036　夏の夜はまだ宵ながら明けぬるを雲のいづこに月やどるらん　　　　　清原深養父 037　しら露に風のふきしく秋の野はつらぬきとめぬ玉ぞ散りける　　　　　文屋朝康 038　忘らるる身をば思はず誓ひてし人の命の惜しくもあるかな　　　　　　右近 039　浅茅生の小野の篠原しのぶれどあまりてなどか人の恋しき　　　　　　参議等 040　忍ぶれど色に出にけり我が恋は物や思ふと人のとふまで　　　　　　　平兼盛 041　恋すてふ我が名はまだき立ちにけり人知れずこそ思ひそめしか　　　　壬生忠見 042　契りきなかたみに袖をしぼりつつ末の松山浪こさじとは　　　　　　　清原元輔 043　あひみての後の心にくらぶれば昔は物を思はざりけり　　　　　　　　中納言敦忠 044　逢ふことのたえてしなくはなかなかに人をも身をも恨みざらまし　　　中納言朝忠 045　あはれとも言ふべき人は思ほえで身のいたづらになりぬべきかな　　　謙徳公 046　由良のとをわたる舟人かぢをたえゆくへも知らぬ恋のみちかな　　　　曾禰好忠 047　やへむぐら茂れる宿のさびしきに人こそ見えね秋は来にけり　　　　　恵慶法師 048　風を痛み岩うつ波の己れのみ砕けて物を思ふころかな　　　　　　　　源重之 049　みかき守ゑじのたく火の夜はもえてひるは消えつつものをこそおもへ　大中臣能宣 050　君がため惜しからざりし命さへ長くもがなと思ひぬるかな　　　　　　藤原義孝 051　かくとだにえやは伊吹のさしも草さしも知らじな燃る思ひを　　　　　藤原実方 052　明けぬれば暮るるものとは知りながらなほ恨めしき朝ぼらけかな　　　藤原道信 053　なげきつつひとりぬる夜の明くる間はいかに久しきものとかはしる　　右大将道綱母 054　忘れじの行く末まではかたければ今日を限りの命ともがな　　　　　　儀同三司母 055　滝の音はたえて久しく成りぬれど名こそ流れて尚聞えけれ　　　　　　大納言公任 056　あらざらむこの世の外の思ひ出に今ひとたびの逢ふこともがな　　　　和泉式部 057　めぐりあひて見しやそれともわかぬまに雲隠れにし夜半の月かな　　　紫式部 058　有馬山ゐなのささ原風ふけばいでそよ人を忘れやはする　　　　　　　大弐三位 059　やすらはで寝なましものをさ夜ふけてかたぶくまでの月を見しかな　　赤染衛門 060　大江山生野の道の遠ければまだふみも見ず天の橋立　　　　　　　　　小式部内侍 061　いにしへの奈良の都の八重桜けふ九重ににほひぬるかな　　　　　　　伊勢大輔 062　夜をこめて鳥のそらねははかるともよに逢坂の関はゆるさじ　　　　　清少納言 063　今はただ思ひ絶えなんとばかりを人づてならで言ふよしもがな　　　　左京大夫道雅 064　朝ぼらけ宇治の川霧たえだえにあらはれわたる瀬々の網代木　　　　　権中納言定頼 065　恨みわびほさぬ袖だにあるものを恋にくちなん名こそ惜しけれ　　　　相模 066　もろともにあはれと思へ山桜花よりほかに知る人もなし　　　　　　　大僧正行尊 067　春の夜の夢ばかりなる手枕にかひなくたたむ名こそ惜しけれ　　　　　周防内侍 068　心にもあらでこの世にながらへば恋しかるべき夜半の月かな　　　　　三条院 069　あらし吹く三室の山の紅葉ばは立田の川の錦なりけり　　　　　　　　能因法師 070　さびしさに宿をたち出でてながむればいづくもおなじ秋の夕暮　　　　良暹法師 071　夕されば門田の稲葉おとづれて葦のまろやに秋風ぞふく　　　　　　　大納言経信 072　音にきく高師の浜のあだ波はかけじや袖のぬれもこそすれ　　　　　　祐子内親王家紀伊 073　高砂の尾上のさくら咲きにけりとやまの霞たたずもあらなん　　　　　大江匡房 074　うかりける人を初瀬の山おろしはげしかれとは祈らぬものを　　　　　源俊頼 075　契りおきしさせもが露を命にて哀れ今年の秋もいぬめり　　　　　　　藤原基俊 076　和田の原こぎ出でてみれば久方の雲井にまがふ沖つ白波　　　　　　　法性寺入道前関白太政大臣 077　瀬をはやみ岩にせかるる滝川のわれても末に逢はむとぞ思ふ　　　　　崇徳院 078　淡路島かよふ千鳥のなく声に幾夜ねざめぬ須磨の関守　　　　　　　　源兼昌 079　秋風に棚引く雲のたえまよりもれいづる月の影のさやけさ　　　　　　左京大夫顕輔 080　長からん心もしらず黒髪の乱れて今朝は物をこそ思へ　　　　　　　　待賢門院堀河 081　ほととぎす鳴きつる方を眺むれば唯有明の月ぞのこれる　　　　　　　後徳大寺左大臣 082　おもひ侘びさても命はあるものをうきにたへぬは涙なりけり　　　　　道因法師 083　世の中よ道こそなけれ思ひ入る山の奥にも鹿ぞなくなる　　　　　　　皇太后宮大夫俊成 084　ながらへばまたこのごろやしのばれんうしと見し世ぞ今は恋しき　　　藤原清輔 085　夜もすがら物思ふころは明けやらで閨の隙さへつれなかりけり　　　　俊恵法師 086　歎けとて月やは物を思はするかこち顔なる我が涙かな　　　　　　　　西行 087　むらさめの露もまだひぬ槙の葉に霧たちのぼる秋の夕暮　　　　　　　寂蓮法師 088　難波江の芦のかりねの一夜ゆゑ身をつくしてや恋ひわたるべき　　　　皇嘉門院別当 089　玉の緒よ絶えなば絶えね永らへば忍ぶることの弱りもぞする　　　　　式子内親王 090　見せばやな雄島のあまの袖だにもぬれにぞぬれし色はかはらず　　　　殷富門院大輔 091　きりぎりす鳴くや霜夜のさむしろに衣かたしきひとりかも寝ん　　　　後京極摂政太政大臣 092　我が袖は潮干にみえぬ沖の石の人こそしらねかわく間もなし　　　　　二条院讃岐 093　世の中はつねにもがもな渚こぐあまの小舟の綱手かなしも　　　　　　鎌倉右大臣 094　みよし野の山の秋風さよ更けて故郷さむくころもうつなり　　　　　　参議雅経 095　おほけなく浮世の民におほふかな我が立つ杣に墨染の袖　　　　　　　前大僧正慈円 096　花さそふ嵐の庭の雪ならでふりゆくものは我が身なりけり　　　　　　入道前太政大臣 097　来ぬ人をまつほの浦の夕なぎにやくや藻しほの身もこがれつつ　　　　藤原定家 098　風そよぐ楢の小川の夕暮は御秡ぞ夏のしるしなりける　　　　　　　　従二位家隆 099　人もをし人もうらめしあぢきなく世を思ふゆゑに物思ふ身は　　　　　後鳥羽院 100　百敷や古き軒端のしのぶにもなほあまりある昔なりけり　　　　　　　順徳院 小倉百人一首　終