伊達家旧蔵本『古今和歌集』翻字 凡例 1 本文は、『古今和歌集 藤原定家筆』(汲古書院 1991年5月)によった。 2 先ず、歌番号を0001以下4桁の数字で表示し、題詞等の地の文は0000と表示した。 3 次に、影印篇の頁数を001以下3桁の数字で表示した。 4 次に、行数を01以下2桁の数字で表示した。 5 割注はその行をaとbとに分けて<  >で記した。   000000203a りける時よりいてきにけり<あまのうきはしのしたにて   000000203b              め神を神となりたまへる事をいへる>   000000204a <うた   000000204b  なり>しかあれとも世につたはることはひさかた 6 書き入れについては、その行を前行の下にa、bと記した。   077819602 ひさしくもなりにける哉すみのえの松はくるしき物にそありける   000019602a かねみのおほきみ   077919602b 住の江の松ほとひさになりぬれはあしたつのねになかぬ日はなし   000019603 仲平朝臣あひしりて侍けるをかれ方になりに 7 行中の字数については、空白を数えていない。 8 各丁の表と裏を、例えば、   000000108 をもあはれとおもはせおとこをむなのなかをも」1ウ  の如く記した。       0        1         2          3 歌番 頁行 1234567890123456789012344567890 000000101 やまとうたは人のこゝろをたねとしてよろつの 000000102 ことのはとそなれりける世中にある人ことわさ 000000103 しけきものなれは心におもふことを見るものきく 000000104 ものにつけていひいたせるなり花になくうくひす 000000105 水にすむかはつのこゑをきけはいきとしいける 000000106 ものいつれかうたをよまさりけるちからをもいれ 000000107 すしてあめつちをうこかしめに見えぬおに神 000000108 をもあはれとおもはせおとこをむなのなかをも」1ウ 000000201 やはらけたけきものゝふの心をもなくさむる 000000202 はうたなりこのうたあめつちのひらけはしま 000000203a りける時よりいてきにけり<あまのうきはしのしたにて 000000203b              め神を神となりたまへる事をいへる 000000204a うた 000000204b なり>しかあれとも世につたはることはひさかた 000000205a のあめにしてはしたてるひめにはしまり<した 000000205b                    てる 000000206a ひめとはあめわかみこのめ也せうとの神のかたちをかたにゝうつりてかゝや 000000206b くをよめるえひす哥なるへしこれらはもしのかすもさたまらす 000000207a うたのやうにも 000000207b あらぬことゝも也>あらかねのつちにしてはすさの 000000208 をのみことよりそおこりけるちはやふる神世には」2オ 000000301 うたのもしもさたまらすすなほにして事 000000302 の心わきかたかりけらしひとの世となりてすさ 000000303 のをのみことよりそみそもしあまりひともし 000000304a はよみける<すさのをのみことはあまてるおほむ神のこのかみ也 000000304b       女とすみたまはむとていつものくにゝ宮つくり 000000305a したまふ時にその所にやいろのくものたつを見てよみたまへる也 000000305b やくもたついつもやへかきつまこめにやへかきつくるそのやへかきを> 000000306 かくてそ花をめてとりをうらやみかすみをあ 000000307 はれひつゆをかなしふ心ことはおほくさま/\ 000000308 になりにけるとをき所もいてたつあしもと」2ウ 000000401 よりはしまりて年月をわたりたかき山も 000000402 ふもとのちりひちよりなりてあまくもたなひ 000000403 くまておひのほれることくにこのうたもかく 000000404 のことくなるへしなにはつのうたはみかとの 000000405a おほむはしめなり<おほさゝきのみかとのなにはつにて 000000405b          みこときこえける時東宮をたかひに 000000406a ゆつりてくらゐにつきたまはて三とせになりにけれは王仁と 000000406b いふ人のいふかり思てよみてたてまつりけるうた也この花は梅の 000000407a はなをいふ 000000407b なるへし>あさか山のことはゝうねめのたは 000000408a ふれよりよみて<かつら木のおほきみをみちのおくへ 000000408b         つかはしたりけるにくにのつかさ事」3オ 000000501a おろそかなりとてまうけなとしたりけれとすさましかり 000000501b けれはうねめなりける女のかはらけとりてよめるなりこれ 000000502a にそおほきみの心 000000502b とけにけるあさか山かけさへ見ゆる山の井のあさくは人をおもふものかは> このふたうたはうたのちゝ 000000503 はゝのやうにてそ手ならふ人のはしめにも 000000504 しけるそも/\うたのさまむつなりからのうた 000000505 にもかくそあるへきそのむくさのひとつには 000000506 そへうたおほさゝきのみかとをそへたてまつれ 000000507 るうた 000000508 なにはつにさくやこの花ふゆこもり」3ウ 000000601 いまはゝるへとさくやこのはなといへるなるへ 000000602 しふたつにはかそへうた 000000603 さく花におもひつくみのあちきなさ身に 000000604 いたつきのいるもしらすてといへるなるへし 000000605a <これはたゝ事にいひてものにたとへなともせぬもの也このうた 000000605b いかにいへるにかあらむその心えかたしいつゝにたゝこと 000000606a うたといへるなむこれ 000000606b にはかなふへき> 000000607 みつにはなすらへうた 000000608 きみにけさあしたのしものおきていなは 000000609 こひしきことにきえやわたらむといへるなるへし」4オ 000000701a <これはものにもなすらへてそれかやうになむあるとや 000000701b うにいふ也この哥よくかなへりとも見えすたらちめの 000000702a おやのかふこのまゆこもりいふせくもあるかいもにあはすて 000000702b かやうなるやこれにはかなふへからむ> 000000703 よつにはたとへうた 000000704 わかこひはよむともつきしありそうみの 000000705 はまのまさこはよみつくすともといへるな 000000706a るへし<これはよろつのくさ木とりけたものにつけて心を 000000706b     見するなりこのうたはかくれたる所なむなきされと 000000707a はしめのそへうたとおなしやうなれはすこしさまをかへ 000000707b たるなるへしすまのあまのしほやくけふり風をいたみ 000000707c おもはぬ方にたなひきにけりこの哥なとやかなふへからむ」4ウ 000000801 いつゝにはたゝことうた 000000802 いつはりのなき世なりせはいかはかり人の 000000803 ことのはうれしからましといへるなるへし 000000804a <これはことのとゝのほりたゝしきをいふ也この哥の心さらに 000000804b かなはすとめうたとやいふへからむ山さくらあくまて 000000805a いろを見つる哉花ちるへくも 000000805b 風ふかぬよに> 000000806 むつにはいはひうた 000000807 このとのはむへもとみけりさき草のみつは 000000808 よつはにとのつくりせりといへるなるへし」5オ 000000901a <これは世をほめて神につくる也このうたいはひうたと 000000901b は見えすなむあるかすかのにわかなつみつゝよろつ 000000902a 世をいはふ心は神そしるらむこれらやすこしかなふ 000000902b へからむおほよそむくさにわかれむ事はえあるましき事になむ> 000000903 今の世中いろにつき人の心花になりにける 000000904 よりあたなるうたはかなきことのみいてくれは 000000905 いろこのみのいへにむもれ木の人しれぬことゝ 000000906 なりてまめなるところには花すゝきほに 000000907 いたすへきことにもあらすなりにたりそのはしめを」5ウ 000001001 おもへはかゝるへくなむあらぬいにしへの世ゝ 000001002 のみかと春の花のあした秋の月の夜こと 000001003 にさふらふ人/\をめしてことにつけつゝ 000001004 うたをたてまつらしめたまふあるは花を 000001005 そふとてたよりなき所にまとひあるは月 000001006 をおもふとてしるへなきやみにたとれる心/\を 000001007 見給てさかしをろかなりとしろしめしけむ 000001008 しかあるのみにあらすさゝれいしにたとへ 000001009 つくは山にかけてきみをねかひよろこひ」6オ 000001101 身にすきたのしひ心にあまりふしのけふり 000001102 によそへて人をこひ松虫のねにともをしの 000001103 ひたかさこすみの江のまつもあひをひのや 000001104 うにおほえおとこ山のむかしをおもひいてゝ 000001105 をみなへしのひとゝきをくねるにもうたをいひ 000001106 てそなくさめける又春のあしたに花の 000001107 ちるを見秋のゆふくれにこのはのおつるをきゝ 000001108 あるはとしことにかゝみのかけに見ゆる雪と浪 000001109 とをなけき草のつゆ水のあわを見て」6ウ 000001201 わか身をおとろきあるはきのふはさかえをこ 000001202 りて時をうしなひ世にわひしたしかりしも 000001203 うとくなりあるは松山の浪をかけ野なかの 000001204 水をくみ秋はきのしたはをなかめあかつ 000001205 きのしきのはねかきをかそへあるはくれ竹 000001206 のうきふしを人にいひよしの河をひきて 000001207 世中をうらみきつるに今はふしの山も煙 000001208 たゝすなりなからのはしもつくるなりときく人は」7オ 000001301 うたにのみそ心をなくさめけるいにしへより 000001302 かくつたはるうちにもならの御時よりそひろ 000001303 まりにけるかのおほむ世やうたの心をしろ 000001304 めしたりけむかのおほむ時におほきみつの 000001305 くらゐかきのもとの人まろなむうたのひし 000001306 りなりけるこれはきみもひとも身をあはせ 000001307 たりといふなるへし秋のゆふへ龍田河になか 000001308 るゝもみちをはみかとのおほむめにゝしきと」7ウ 000001401 見たまひ春のあしたよしのゝ山のさくらは 000001402 人まろか心にはくもかとのみなむおほえ 000001403 ける又山の辺のあかひとゝいふ人ありけり 000001404 うたにあやしくたへなりけり人まろは 000001405 あかひとかゝみにたゝむことかたくあか人は 000001406 人まろかしもにたゝむことかたくなむあ 000001407a りける<ならのみかとの御うたたつた河もみちみたれて 000001407b    なかるめりわたらはにしきなかやたえなむ 000001408a 人まろ梅花それとも見えす久方のあまきる雪のなへてふ 000001408b れゝはほの/\とあかしのうらのあさきりに嶋かくれ行舟をしそ思」8オ 000001501a 赤人春のゝにすみれつみにとこし我そのをなつかしみひと 000001501b 夜ねにけるわかの浦にしほみちくれは方をなみあしへを 000001502a さしてたつ 000001502b なきわたる> 000001503 この人/\をゝきて又すくれたる人もくれ 000001504 竹の世ゝにきこ江かたいとのより/\にたえす 000001505 そありけるこれよりさきのうたをあつめてな 000001506 む万えうしふとなつけられたりけるこゝに 000001507 いにしへのことをもうたの心をもしれる人」8ウ 000001601 わつかにひとりふたり也きしかあれとこれかれ 000001602 えたるところえぬところたかひになむある 000001603 かの御時よりこのかた年はもゝとせあまり世 000001604 はとつきになむなりにけるいにしへの事 000001605 をもうたをもしれる人よむ人おほからす 000001606 いまこのことをいふにつかさくらゐたかき 000001607 人をはたやすきやうなれはいれすそのほか 000001608 にちかき世にその名きこ江たる人はすなはち」9オ 000001701 僧正遍昭はうたのさまはえたれともまこ 000001702 とすくなしたとへはゑにかけるをうなを 000001703a 見ていたつらに心をうこかすかことし<あさみとり 000001703b                   いとよりかけて 000001704a しらつゆをたまにもぬけるはるの柳かはちすはのにこり 000001704b にしまぬ心もてなにかはつゆをたまとあさむくさかの 000001705a にてむまよりおちてよめる名にめてゝおれるはかりそ 000001705b をみなへしわれおちにきと人にかたるな> 000001706 ありはらのなりひらはその心あまりてことは 000001707 たらすしほめる花のいろなくてにほひ」9ウ 000001801a のこれるかことし<月やあらぬ春やむかしの春ならぬ 000001801b          わか身ひとつはもとの身にして 000001802a おほかたは月をもめてしこれそこのつもれは人のおい 000001802b となるものねぬるよのゆめをはかなみまとろめは 000001803a いやはかなにもなり 000001803b まさるかな>ふんやのやすひてはことはゝ 000001804 たくみにてそのさま身におはすいはゝ 000001805a あき人のよきゝぬきたらむかことし<吹からに 000001805b                  よもの草 000001806a 木のしほるれはむへ山かせをあらしといふらむ深 000001806b 草のみかとの御国忌に草ふかきかすみのたにゝかけかくし 000001807a てる日のくれし 000001807b けふにやはあらぬ>宇治山のそうきせんはことは」10オ 000001901 かすかにしてはしめをはりたしかならす 000001902 いはゝ秋の月を見るにあかつきのくもに 000001903a あへるかことし<わかいほはみやこのたつみしかそすむ 000001903b         世をうち山と人はいふなり> 000001904 よめるうたおほくきこえねはかれこれを 000001905 かよはしてよくしらすをのゝこまちはいに 000001906 しへのそとほりひめの流なりあはれなる 000001907 やうにてつよからすいはゝよきをうなの 000001908 なやめる所あるにゝたりつよからぬはをう」10ウ 000002001a なのうたなれはなるへし<思つゝぬれはや人の 000002001b            見えつらむゆめとしり 000002002a せはさめさらましをいろ見えてうつろふものは世中の 000002002b 人の心の花にそありけるわひぬれは身をうきくさの 000002003a ねをたえてさそふ水あらはいなむとそ思そとほりひめ 000002003b のうたわかせこかくへきよひ也さゝかにのくものふるまひ 000002004a かねてし 000002004b るしも>おほとものくろぬしはそのさ 000002005 まいやしいはゝたきゝおへる山ひとの花 000002006a のかけにやすめるかことし<思いてゝこひしき時は 000002006b              はつかりのなきてわたると 000002007a 人はしらすやかゝみ山いさたちよりて見てゆかむ 000002007b としへぬる身はおいやしぬると>」11オ 000002101 このほかの人/\その名きこゆる野辺にお 000002102 ふるかつらのはひゝろこりはやしにしけき 000002103 このはのことくにおほかれとうたとのみ思ひて 000002104 そのさましらぬなるへしかゝるにいますへ 000002105 らきのあめのしたしろしめすことよつ 000002106 の時こゝのかへりになむなりぬるあまねき 000002107 おほむうつくしみのなみやしまのほか 000002108 まてなかれひろきおほむめくみのかけつ」11ウ 000002201 くは山のふもとよりもしけくおはしまして 000002202 よろつのまつりことをきこしめすいとま 000002203 もろ/\のことをすてたまはぬあまりにいに 000002204 しへのことをもわすれしふりにしことをも 000002205 おこしたまふとていまも見そなはしのちの 000002206 世にもつたはれとて延喜五年四月十八日に 000002207 大内記きのとものり御書のところのあつかり 000002208 きのつらゆきさきのかひのさう官おふし」12オ 000002301 かうちのみつね右衛門の府生みふのたゝみね 000002302 らにおほせられて万えうしふにいらぬふ 000002303 るきうたみつからのをもたてまつらしめた 000002304 まひてなむそれかなかにむめをかさすより 000002305 はしめてほとゝきすをきゝもみちをおり 000002306 雪を見るにいたるまて又つるかめにつけて 000002307 きみをおもひ人をもいはひ秋はき夏 000002308 草を見てつまをこひあふさか山にいたりて」12ウ 000002401 たむけをいのりあるは春夏秋冬にもいらぬ 000002402 くさ/\のうたをなむえらはせたまひける 000002403 すへて千うたはたまき名つけてこきむわか 000002404 しふといふかくこのたひあつめえらはれて 000002405 山した水のたえすはまのまさこのかすおほ 000002406 くつもりぬれはいまはあすかゝはのせに 000002407 なるうらみもきこ江すさゝれいしのいはほと 000002408 なるよろこひのみそあるへきそれまくら」13オ 000002501 ことは春の花にほひすくなくしてむなし 000002502 き名のみ秋の夜のなかきをかこてれは 000002503 かつは人のみゝにおそりかつはうたの心に 000002504 はちおもへとたなひくゝものたちゐなくしか 000002505 のおきふしはつらゆきらかこの世におな 000002506 しくむまれてこのことの時にあへるをなむ 000002507 よろこひぬる人まろなくなりにたれと 000002508 うたのこととゝまれるかなたとひ時うつり」13ウ 000002601 ことさりたのしひかなしひゆきかふともこの 000002602 うたのもしあるをやあをやきのいとたえす 000002603 まつのはのちりうせすしてまさきのかつらな 000002604 かくつたはりとりのあとひさしくとゝまれらは 000002605 うたのさまをもしりことの心をえたらむ 000002606 人はおほそらの月を見るかことくにいに 000002607 しへをあふきていまをこひさらめかも」14オ 0000027** 」14ウ 0000028** 」15オ 000002901 古今和歌集巻第一 000002902 春哥上 000002903 ふるとしに春たちける日よめる 000002904 在原元方 000102905 としのうちに春はきにけりひとゝせをこそとやいはむことしとやいはむ 000002906 はるたちける日よめる 000002907 紀貫之 000202908 袖ひちてむすひし水のこほれるを春立けふの風やとく覧 000002909 題しらす よみ人しらす 000302910 春霞たてるやいつこみよしのゝよしのゝ山に雪はふりつゝ」15ウ 000003001 二条のきさきのはるのはしめの御うた 000403002 雪の内に春はきにけりうくひすのこほれる涙今やとく覧 000003003 題しらす よみ人しらす 000503004 梅かえにきゐるうくひすはるかけてなけともいまた雪はふりつゝ 000003005 雪の木にふりかゝれるをよめる 000003006 素性法師 000603007 春たては花とや見らむ白雪のかゝれる枝にうくひすそなく 000003008 題しらす よみ人しらす 000703009 心さしふかくそめてし折けれはきえあへぬ雪の花と見ゆらむ 000003010 ある人のいはくさきのおほきおほいまうちきみの哥也 000003011 二条のきさきのとう宮のみやすんところときこえける時」16オ 000003101 正月三日おまへにめしておほせことあるあひたに 000003102 日はてりなから雪のかしらにふりかゝりけるをよませ 000003103 給ける 文屋やすひて 000803104 春の日のひかりにあたる我なれとかしらの雪となるそわひしき 000003105 ゆきのふりけるをよめる 000003106 きのつらゆき 000903107 霞たちこのめもはるの雪ふれは花なきさとも花そちりける 000003108 春のはしめによめる 000003109 ふちはらのことなお 001003110 はるやとき花やをそきときゝわかむ鶯たにもなかすもある哉 000003111 はるのはしめのうた 000003112 みふのたゝみね」16ウ 001103201 春きぬと人はいへともうくひすのなかぬかきりはあらしとそ思 000003202 寛平御時きさいの宮のうたあはせのうた 000003203 源まさすみ 001203204 谷風にとくるこほりのひまことにうちいつる浪や春のはつ花 000003205 紀とものり 001303206 花のかを風のたよりにたくへてそ鶯さそふしるへにはやる 000003207 大江千里 001403208 うくひすの谷よりいつるこゑなくは春くることをたれかしらまし 000003209 在原棟梁 001503210 春たてと花もにほはぬ山さとはものうかるねに鶯そなく 000003211 題しらす よみ人しらす」17オ 001603301 野辺ちかくいへゐしせれはうくひすのなくなるこゑはあさな/\きく 001703302 かすかのはけふはなやきそわか草のつまもこもれり我もこもれり 001803303 かすかのゝとふひのゝもりいてゝ見よ今いくかありてわかなつみてむ 001903304 み山には松の雪たにきえなくに宮こはのへのわかなつみけり 002003305 梓弓をしてはるさめけふゝりぬあすさへふらはわかなつみてむ 000003306 仁和のみかとみこにおまし/\ける時に人に 000003307 わかなたまひける御うた 002103308 君かため春のゝにいてゝわかなつむわか衣手に雪はふりつゝ 000003309 哥たてまつれとおほせられし時よみてたてまつれる 000003310 つらゆき」17ウ 002203401 かすかのゝわかなつみにや白妙の袖ふりはへて人のゆくらむ 000003402 題しらす 在原行平朝臣 002303403 はるのきるかすみの衣ぬきをうすみ山風にこそみたるへらなれ 000003404 寛平御時きさいの宮の哥合によめる 000003405 源むねゆきの朝臣 002403406 ときはなる松のみとりも春くれは今ひとしほの色まさりけり 000003407 哥たてまつれとおほせられし時によみてたてまつれる 000003408 つらゆき 002503409 わかせこか衣はるさめふることにのへのみとりそいろまさりける 002603410 あをやきのいとよりかくる春しもそみたれて花のほころひにける」18オ 000003501 西大寺のほとりの柳をよめる 000003502 僧正遍昭 002703503 あさみとりいとよりかけてしらつゆをたまにもぬける春の柳か 000003504 題しらす よみ人しらす 002803505 もゝちとりさへつる春は物ことにあらたまれとも我そふり行 002903506 をちこちのたつきもしらぬ山なかにおほつかなくもよふことり哉 000003507 かりのこゑをきゝてこしへまかりにける人を思てよめる 000003508 凡河内みつね 003003509 春くれはかりかへるなり白雲のみちゆきふりにことやつてまし 000003510 帰雁をよめる 伊勢」18ウ 003103601 はるかすみたつを見すてゝゆくかりは花なきさとにすみやならへる 000003602 題しらす よみ人しらす 003203603 折つれは袖こそにほへ梅花有とやこゝにうくひすのなく 003303604 色よりもかこそあはれとおもほゆれたか袖ふれしやとの梅そも 003403605 やとちかく梅の花うへしあちきなくまつ人のかにあやまたれけり 003503606 梅花たちよる許ありしより人のとかむるかにそしみぬる 000003607 むめの花をゝりてよめる 000003608 東三条の左のおほいまうちきみ 003603609 鶯の笠にぬふといふ梅花折てかさゝむおいかくるやと 000003610 題しらす 素性法師」19オ 003703701 よそにのみあはれとそ見し梅花あかぬいろかは折てなりけり 000003702 むめの花をゝりて人にをくりける 000003703 とものり 003803704 君ならて誰にか見せむ梅花色をもかをもしる人そしる 000003705 くらふ山にてよめる 000003706 つらゆき 003903707 梅花にほふ春へはくらふ山やみにこゆれとしるくそ有ける 000003708 月夜に梅花をゝりてと人のいひけれはおるとて 000003709 よめる みつね 004003710 月夜にはそれとも見えす梅花かをたつねてそしるへかりける 000003711 はるのよ梅花をよめる」19ウ 004103801 春の夜のやみはあやなし梅花色こそ見えねかやはかくるゝ 000003802 はつせにまうつることにやとりける人の家にひ 000003803 さしくやとらてほとへてのちにいたれりけれは 000003804 かの家のあるしかくさたかになむやとりはあ 000003805 るといひいたして侍けれはそこにたてりける 000003806 むめの花をゝりてよめる 000003807 つらゆき 004203808 人はいさ心もしらすふるさとは花そ昔のかにゝほひける 000003809 水のほとりに梅花さけりけるをよめる 000003810 伊勢」20オ 004303901 春ことになかるゝ河を花と見ておられぬ水に袖やぬれなむ 004403902 年をへて花のかゝみとなる水はちりかゝるをやくもるといふ覧 000003903 家にありける梅花のちりけるをよめる 000003904 つらゆき 004503905 くるとあくとめかれぬものを梅花いつの人まにうつろひぬらむ 000003906 寛平御時きさいの宮の哥合のうた 000003907 よみ人しらす 004603908 梅かゝをそてにうつしてとゝめては春はすくともかたみならまし 000003909 素性法師 004703910 ちると見てあるへきものを梅花うたてにほひのそてにとまれる 000003911 題しらす よみ人しらす」20ウ 004804001 ちりぬともかをたにのこせ梅花こひしき時のおもひいてにせむ 000004002 人の家にうへたりけるさくらの花さきはしめ 000004003 たりけるを見てよめる 000004004 つらゆき 004904005 ことしより春しりそむるさくら花ちるといふ事はならはさらなむ 000004006 題しらす よみ人しらす 005004007 山たかみ人もすさめぬさくら花いたくなわひそ我見はやさむ 000004008 又はさとゝをみ人もすさめぬ山さくら 005104009 やまさくらわか見にくれは春霞峯にもおにもたちかくしつゝ 000004010 そめとのゝきさきのおまへに花かめにさくらの」21オ 000004101 花をさゝせ給へるを見てよめる 000004102 さきのおほきおほいまうちきみ 005204103 年ふれはよはひはおいぬしかはあれと花をし見れはもの思ひもなし 000004104 なきさの院にてさくらを見てよめる 000004105 在原業平朝臣 005304106 世中にたえてさくらのなかりせは春の心はのとけからまし 000004107 題しらす よみ人しらす 005404108 いしはしるたきなくも哉桜花たおりてもこむ見ぬ人のため 000004109 山のさくらを見てよめる 000004110 そせい法し」21ウ 005504201 見てのみや人にかたらむさくら花てことにおりていへつとにせむ 000004202 花さかりに京を見やりてよめる 005604203 みわたせは柳桜をこきませて宮こそ春の錦なりける 000004204 さくらの花のもとにて年のおいぬることを 000004205 なけきてよめる 000004206 きのとものり 005704207 いろもかもおなしむかしにさくらめと年ふる人そあらたまりける 000004208 おれるさくらをよめる 000004209 つらゆき 005804210 たれしかもとめておりつる春霞たちかくすらむ山のさくらを 000004211 哥たてまつれとおほせられし時によみてたてまつれる」22オ 005904301 桜花さきにけらしなあしひきの山のかひより見ゆる白雲 000004302 寛平御時きさいの宮の哥合のうた 000004303 とものり 006004304 み吉野ゝ山へにさけるさくら花雪かとのみそあやまたれける 000004305 やよひにうるふ月ありける年よみける 000004306 伊勢 006104307 さくら花春くはゝれる年たにも人の心にあかれやはせぬ 000004308 さくらの花のさかりにひさしくとはさりける 000004309 人のきたりける時によみける 000004310 よみ人しらす 006204311 あたなりとなにこそたてれ桜花年にまれなる人もまちけり」22ウ 000004401 返し なりひらの朝臣 006304402 けふこすはあすは雪とそふりなましきえすはありとも花と見ましや 000004403 題しらす よみ人しらす 006404404 ちりぬれはこふれとしるしなき物をけふこそさくらおらはおりてめ 006504405 おりとらはおしけにもあるか桜花いさやとかりてちるまては見む 000004406 きのありとも 006604407 さくらいろに衣はふかくそめてきむ花のちりなむのちのかたみに 000004408 さくらの花のさけりけるを見にまうてきたり 000004409 ける人によみてをくりける 000004410 みつね」23オ 006704501 わかやとの花見かてらにくる人はちりなむのちそこひしかるへき 000004502 亭子院哥合の時よめる 000004503 伊勢 006804504 見る人もなき山さとのさくら花ほかのちりなむのちそさかまし」23ウ 000004601 古今和歌集巻第二 000004602 春哥下 000004603 題しらす よみ人しらす 006904604 春霞たなひく山のさくら花うつろはむとや色かはりゆく 007004605 まてといふにちらてしとまる物ならはなにを桜に思ひまさまし 007104606 のこりなくちるそめてたき桜花ありて世中はてのうけれは 007204607 このさとにたひねしぬへしさくら花ちりのまかひにいへちわすれて 007304608 空蝉の世にもにたるか花さくらさくと見しまにかつちりにけり 000004609 僧正遍昭によみてをくりける」24オ 000004701 これたかのみこ 007404702 さくら花ちらはちら南ちらすとてふるさと人のきても見なくに 000004703 雲林院にてさくらの花のちりけるを見てよめる 000004704 そうく法師 007504705 桜ちる花の所は春なから雪そふりつゝきえかてにする 000004706 さくらの花のちり侍けるを見てよみける 000004707 そせい法し 007604708 花ちらす風のやとりはたれかしる我にをしへよ行てうらみむ 000004709 うりむゐんにてさくらの花をよめる 000004710 そうく法し」24ウ 007704801 いさゝくら我もちりなむひとさかりありなは人にうきめ見えなむ 000004802 あひしれりける人のまうてきてかへりにけるのちに 000004803 よみて花にさしてつかはしける 000004804 つらゆき 007804805 ひとめ見し君もやくると桜花けふはまち見てちらはちらなむ 000004806 山のさくらを見てよめる 007904807 春霞なにかくすらむ桜花ちるまをたにも見るへき物を 000004808 心地そこなひてわつらひける時に風にあたらし 000004809 とておろしこめてのみ侍けるあひたにおれる 000004810 さくらのちりかたになれりけるを見てよめる 000004811 藤原よるかの朝臣」25オ 008004901 たれこめて春のゆくゑもしらぬまにまちし桜もうつろひにけり 000004902 東宮雅院にてさくらの花のみかは水にちりて 000004903 なかれけるを見てよめる 000004904 すかのゝ高世 008104905 枝よりもあたにちりにし花なれはおちても水のあわとこそなれ 000004906 さくらの花のちりけるをよみける 000004907 つらゆき 008204908 ことならはさかすやはあらぬさくら花見る我さへにしつ心なし 000004909 さくらのことゝくちる物はなしと人のいひけれはよめる 008304910 さくら花とくちりぬともおもほえす人の心そ風も吹あへぬ」25ウ 000005001 桜の花のちるをよめる 000005002 きのとものり 008405003 久方のひかりのとけき春の日にしつ心なく花のちる覧 000005004 春宮のたちはきのちんにてさくらの花のちるをよめる 000005005 ふちはらのよしかせ 008505006 春風は花のあたりをよきてふけ心つからやうつろふと見む 000005007 さくらのちるをよめる 000005008 凡河内みつね 008605009 雪とのみふるたにあるをさくら花いかにちれとか風の吹らむ 000005010 ひえにのほりてかへりまうてきてよめる 000005011 つらゆき」26オ 008705101 山たかみゝつゝわかこしさくら花風は心にまかすへら也 000005102 題しらす 大伴くろぬし 008805103 春雨のふるは涙かさくら花ちるをおしまぬ人しなけれは 000005104 亭子院哥合哥 つらゆき 008905105 さくら花ちりぬる風のなこりには水なきそらに浪そたちける 000005106 ならのみかとの御うた 009005107 ふるさとゝなりにしならのみやこにも色はかはらす花はさきけり 000005108 はるのうたとてよめる 000005109 よしみねのむねさた 009105110 花の色はかすみにこめて見せすともかをたにぬすめ春の山かせ 000005111 寛平御時きさいの宮の哥合のうた 000005112 そせい法し」26ウ 009205201 はなの木も今はほりうへし春たてはうつろふ色に人ならひけり 000005202 題しらす よみ人しらす 009305203 春の色のいたりいたらぬさとはあらしさけるさかさる花の見ゆらむ 000005204 はるのうたとてよめる 000005205 つらゆき 009405206 みわ山をしかもかくすか春霞人にしられぬ花やさく覧 000005207 うりむゐんのみこのもとに花見にきた山のほ 000005208 とりにまかれりける時によめる 000005209 そせい 009505210 いさけふは春の山辺にましりなむくれなはなけの花のかけかは 000005211 はるのうたとてよめる 009605212 いつまてか野辺に心のあくかれむ花しちらすは千世もへぬへし」27オ 000005301 題しらす よみ人しらす 009705302 春ことに花のさかりはありなめとあひ見む事はいのちなりけり 009805303 花のこと世のつねならはすくしてし昔は又もかへりきなまし 009905304 吹風にあつらへつくる物ならはこのひともとはよきよといはまし 010005305 まつ人もこぬ物ゆへにうくひすのなきつる花をゝりてける哉 000005306 寛平御時きさいの宮のうたあはせのうた 000005307 藤原おきかせ 010105308 さく花は千くさなからにあたなれとたれかはゝるをうらみはてたる 010205309 春霞色のちくさに見えつるはたなひく山の花のかけかも 000005310 ありはらのもとかた」27ウ 010305401 霞立春の山へはとをけれと吹くる風は花のかそする 000005402 うつろへる花を見てよめる 000005403 みつね 010405404 花見れは心さへにそうつりけるいろにはいてし人もこそしれ 000005405 題しらす よみ人しらす 010505406 鶯のなくのへことにきて見れはうつろふ花に風そふきける 010605407 吹風をなきてうらみよ鶯は我やは花に手たにふれたる 000005408 典侍洽子朝臣 010705409 ちる花のなくにしとまる物ならは我鶯におとらましやは 000005410 仁和の中将のみやすん所家に哥合せむとてしける 000005411 時によみける 藤原のちかけ」28オ 010805501 花のちることやわひしき春霞たつたの山のうくひすのこゑ 000005502 うくひすのなくをよめる 000005503 そせい 010905504 こつたへはをのかはかせにちる花をたれにおほせてこゝらなくらむ 000005505 鶯の花の木にてなくをよめる 000005506 みつね 011005507 しるしなきねをもなくかなうくひすのことしのみちる花ならなくに 000005508 題しらす よみ人しらす 011105509 こまなめていさ見にゆかむふるさとは雪とのみこそ花はちるらめ 011205510 ちる花をなにかうらみむ世中にわか身もともにあらむ物かは 000005511 小野小町 011305512 花の色はうつりにけりないたつらにわか身世にふるなかめせしまに」28ウ 000005601 仁和の中将のみやすん所の家に哥合せむとし 000005602 ける時によめる 000005603 そせい 011405604 おしと思心はいとによられ南ちる花ことにぬきてとゝめむ 000005605 しかの山こえに女のおほくあへりけるによみて 000005606 つかはしける つらゆき 011505607 あつさゆみはるの山辺をこえくれは道もさりあへす花そちりける 000005608 寛平御時きさいの宮の哥合のうた 011605609 春のゝにわかなつまむとこし物をちりかふ花にみちはまとひぬ 000005610 山てらにまうてたりけるによめる 011705611 やとりして春の山辺にねたる夜は夢の内にも花そちりける 000005612 寛平御時きさいの宮の哥合のうた」29オ 011805701 吹風と谷の水としなかりせはみ山かくれの花を見ましや 000005702 しかよりかへりけるをうなともの花山にいりてふち 000005703 の花のもとにたちよりてかへりけるによみてをくりける 000005704 僧正遍昭 011905705 よそに見てかへらむ人にふちの花はひまつはれよえたはおるとも 000005706 家にふちの花のさけりけるを人のたちとまりて見 000005707 けるをよめる 000005708 みつね 012005709 わかやとにさける藤波たちかへりすきかてにのみ人の見るらむ 000005710 題しらす よみ人しらす 012105711 今もかもさきにほふ覧橘のこしまのさきの山吹の花 012205712 春雨にゝほへる色もあかなくにかさへなつかし山吹の花」29ウ 012305801 山ふきはあやなゝさきそ花見むとうへけむ君かこよひこなくに 000005802 よしの河のほとりに山ふきのさけりけるをよめる 000005803 つらゆき 012405804 吉野河岸の山吹ふくかせにそこの影さへうつろひにけり 000005805 題しらす よみ人しらす 012505806 かはつなくゐての山吹ちりにけり花のさかりにあはまし物を 000005807 この哥はある人のいはくたちはなのきよともか哥也 000005808 春の哥とてよめる 000005809 そせい 012605810 おもふとち春の山辺にうちむれてそこともいはぬたひねしてしか 000005811 はるのとくすくるをよめる 000005812 みつね 012705813 あつさゆみ春たちしより年月のいるかことくもおもほゆる哉」30オ 000005901 やよひにうくひすのこゑのひさしうきこえさり 000005902 けるをよめる つらゆき 012805903 なきとむる花しなけれはうくひすもはては物うくなりぬへらなり 000005904 やよひのつこもりかたに山をこえけるに山河より 000005905 花のなかれけるをよめる 000005906 ふかやふ 012905907 花ちれる水のまに/\とめくれは山には春もなくなりにけり 000005908 はるをおしみてよめる 000005909 もとかた 013005910 おしめともとゝまらなくに春霞かへる道にしたちぬとおもへは 000005911 寛平御時きさいの宮の哥合のうた 000005912 おきかせ 013105913 こゑたえすなけやうくひすひとゝせにふたゝひとたにくへき春かは」30ウ 000006001 やよひのつこもりの日花つみよりかへりける女 000006002 ともを見てよめる 000006003 みつね 013206004 とゝむへき物とはなしにはかなくもちる花ことにたくふこゝろか 000006005 やよひのつこもりの日あめのふりけるにふち 000006006 の花をゝりて人につかはしける 000006007 なりひらの朝臣 013306008 ぬれつゝそしゐておりつる年の内に春はいくかもあらしと思へは 000006009 亭子院の哥合のはるのはてのうた 000006010 みつね 013406011 けふのみと春をおもはぬ時たにも立ことやすき花のかけかは」31オ 000006101 古今和歌集巻第三 000006102 夏哥 000006103 題しらす よみ人しらす 013506104 わかやとの池の藤波さきにけり山郭公いつかきなかむ 000006105 このうたある人のいはくかきのもとの人まろか也 000006106 う月にさけるさくらを見てよめる 000006107 紀としさた 013606108 あはれてふ事をあまたにやらしとや春にをくれてひとりさくらむ 000006109 題しらす よみ人しらす 013706110 さ月まつ山郭公うちはふき今もなかなむこそのふるこゑ 000006111 伊勢」31ウ 013806201 五月こはなきもふり南郭公またしきほとのこゑをきかはや 000006202 よみ人しらす 013906203 さつき松花橘のかをかけは昔の人の袖のかそする 014006204 いつのまにさ月きぬ覧あしひきの山郭公今そなくなる 014106205 けさきなきいまたゝひなる郭公花たちはなにやとはから南 000006206 をとは山をこえける時に郭公のなくをきゝてよめる 000006207 きのとものり 014206208 をとは山けさこえくれは郭公こすゑはるかに今そなくなる 000006209 郭公のはしめてなきけるをきゝてよめる 000006210 そせい 014306211 郭公はつこゑきけはあちきなくぬしさたまらぬこひせらるはた」32オ 000006301 ならのいその神てらにて郭公のなくをよめる 014406302 いその神ふるき宮この郭公声許こそむかしなりけれ 000006303 題しらす よみ人しらす 014506304 夏山になく郭公心あらは物思我に声なきかせそ 014606305 郭公なくこゑきけはわかれにしふるさとさへそこひしかりける 014706306 ほとゝきすなかなくさとのあまたあれは猶うとまれぬ思物から 014806307 思いつるときはの山の郭公唐紅のふりいてゝそなく 014906308 声はして涙は見えぬ郭公わか衣手のひつをから南 015006309 あしひきの山郭公おりはへてたれかまさるとねをのみそなく 015106310 今さらに山へかへるな郭公こゑのかきりはわかやとになけ」32ウ 000006401 みくにのまち 015206402 やよやまて山郭公事つてむ我世中にすみわひぬとよ 000006403 寛平御時きさいの宮の哥合のうた 000006404 紀とものり 015306405 五月雨に物思ひをれは郭公夜ふかくなきていつちゆくらむ 015406406 夜やくらき道やまとへるほとゝきすわかやとをしもすきかてになく 000006407 大江千里 015506408 やとりせし花橘もかれなくになとほとゝきすこゑたえぬ覧 000006409 きのつらゆき 015606410 夏の夜のふすかとすれは郭公なくひとこゑにあくるしのゝめ 000006411 みふのたゝみね 015706412 くるゝかと見れはあけぬるなつのよをあかすとやなく山郭公」33オ 000006501 紀秋岑 015806502 夏山にこひしき人やいりにけむ声ふりたてゝなく郭公 000006503 題しらす よみ人しらす 015906504 こその夏なきふるしてし郭公それかあらぬかこゑのかはらぬ 000006505 郭公のなくをきゝてよめる 000006506 つらゆき 016006507 五月雨のそらもとゝろに郭公なにをうしとかよたゝなくらむ 000006508 さふらひにてをのことものさけたうへけるに 000006509 めして郭公まつうたよめとありけれはよめる 000006510 みつね 016106511 ほとゝきすこゑもきこえす山ひこはほかになくねをこたへやはせぬ 000006512 山に郭公のなきけるをきゝてよめる」33ウ 000006601 つらゆき 016206602 郭公人まつ山になくなれは我うちつけにこひまさりけり 000006603 はやくすみける所にてほとゝきすのなきけるをきゝて 000006604 よめる たゝみね 016306605 むかしへや今もこひしき郭公ふるさとにしもなきてきつらむ 000006606 郭公のなきけるをきゝてよめる 000006607 みつね 016406608 郭公我とはなしに卯花のうき世中になきわたる覧 000006609 はちすのつゆを見てよめる 000006610 僧正へんせう 016506611 はちすはのにこりにしまぬ心もてなにかはつゆを玉とあさむく 000006612 月のおもしろかりける夜あかつきかたによめる」34オ 000006701 深養父 016606702 夏の夜はまたよゐなからあけぬるを雲のいつこに月やとるらむ 000006703 となりよりとこなつの花をこひにをこせたり 000006704 けれはおしみてこのうたをよみてつかはしける 000006705 みつね 016706706 ちりをたにすへしとそ思さきしよりいもとわかぬるとこ夏のはな 000006707 みな月のつこもりの日よめる 016806708 夏と秋と行かふそらのかよひちはかたへすゝしき風やふく覧」34ウ 000006801 古今和歌集巻第四 000006802 秋哥上 000006803 秋立日よめる 藤原敏行朝臣 016906804 あきゝぬとめにはさやかに見えねとも風のをとにそおとろかれぬる 000006805 秋たつ日うへのをのこともかものかはらにかは 000006806 せうえうしけるともにまかりてよめる 000006807 つらゆき 017006808 河風のすゝしくもあるかうちよする浪とゝもにや秋は立覧 000006809 題しらす よみ人しらす 017106810 わかせこか衣のすそを吹返しうらめつらしき秋のはつ風 017206811 きのふこそさなへとりしかいつのまにいなはそよきて秋風の吹」35オ 017306901 秋風の吹にし日より久方のあまのかはらにたゝぬ日はなし 017406902 久方のあまのかはらのわたしもり君わたりなはかちかくしてよ 017506903 天河紅葉をはしにわたせはやたなはたつめの秋をしもまつ 017606904 こひ/\てあふ夜はこよひあまの河きり立わたりあけすもあらなむ 000006905 寛平御時なぬかの夜うへにさふらふをのことも 000006906 哥たてまつれとおほせられける時に人にかはりてよめる 000006907 とものり 017706908 天河あさせしら浪たとりつゝわたりはてねはあけそしにける 000006909 おなし御時きさいの宮の哥合のうた 000006910 藤原おきかせ 017806911 契けむ心そつらきたなはたの年にひとたひあふはあふかは」35ウ 000007001 なぬかの日の夜よめる 000007002 凡河内みつね 017907003 年ことにあふとはすれとたなはたのぬるよのかすそすくなかりける 018007004 織女にかし鶴糸の打はへて年のをなかくこひやわたらむ 000007005 題しらす そせい 018107006 こよひこむ人にはあはしたなはたのひさしきほとにまちもこそすれ 000007007 なぬかの夜のあかつきによめる 000007008 源むねゆきの朝臣 018207009 今はとてわかるゝ時は天河わたらぬさきにそてそひちぬる 000007010 やうかの日よめる みふのたゝみね 018307011 けふよりはいまこむ年のきのふをそいつしかとのみまちわたるへき 000007012 題しらす よみ人しらす」36オ 018407101 このまよりもりくる月の影見れは心つくしの秋はきにけり 018507102 おほかたの秋くるからにわか身こそかなしき物と思しりぬれ 018607103 わかためにくる秋にしもあらなくにむしのねきけはまつそかなしき 018707104 物ことに秋そかなしきもみちつゝうつろひゆくをかきりと思へは 018807105 ひとりぬるとこは草はにあらねとも秋くるよゐはつゆけかりけり 000007106 これさたのみこの家の哥合のうた 018907107 いつはとは時はわかねと秋のよそ物思ふ事のかきりなりける 000007108 かむなりのつほに人/\あつまりて秋のよおしむ哥 000007109 よみけるついてによめる 000007110 みつね」36ウ 019007201 かく許おしと思夜をいたつらにねてあかすらむ人さへそうき 000007202 題しらす よみ人しらす 019107203 白雲にはねうちかはしとふかりのかすさへ見ゆる秋のよの月 019207204 さ夜なかと夜はふけぬらしかりかねのきこゆるそらに月わたる見ゆ 000007205 これさたのみこの家の哥合によめる 000007206 大江千里 019307207 月見れはちゝに物こそかなしけれわか身ひとつの秋にはあらねと 000007208 たゝみね 019407209 久方の月の桂も秋は猶もみちすれはやてりまさるらむ 000007210 月をよめる 在原元方 019507211 秋の夜の月のひかりしあかけれはくらふの山もこえぬへらなり」37オ 000007301 人のもとにまかれりける夜きり/\すのなきける 000007302 をきゝてよめる 藤原忠房 019607303 蟋蟀いたくなゝきそ秋の夜の長き思ひは我そまされる 000007304 これさたのみこの家の哥合のうた 000007305 としゆきの朝臣 019707306 秋の夜のあくるもしらすなくむしはわかこと物やかなしかるらむ 000007307 題しらす よみ人しらす 019807308 あき萩も色つきぬれはきり/\すわかねぬことやよるはかなしき 019907309 秋の夜はつゆこそことにさむからし草むらことにむしのわふれは 020007310 君しのふ草にやつるゝふるさとは松虫のねそかなしかりける 020107311 秋のゝに道もまとひぬ松虫のこゑする方にやとやからまし」37ウ 020207401 あきのゝに人松虫のこゑすなり我かとゆきていさとふらはむ 020307402 もみちはのちりてつもれるわかやとに誰を松虫こゝらなく覧 020407403 ひくらしのなきつるなへに日はくれぬと思ふは山のかけにそありける 020507404 ひくらしのなく山里のゆふくれは風よりほかにとふ人もなし 000007405 はつかりをよめる 在原元方 020607406 松人にあらぬ物からはつかりのけさなくこゑのめつらしき哉 000007407 これさたのみこの家の哥合のうた 000007408 とものり 020707409 秋風にはつかりかねそきこゆなるたかたまつさをかけてきつ覧 000007410 題しらす よみ人しらす 020807411 わかゝとにいなおほせとりのなくなへにけさ吹風にかりはきにけり 020907412 いとはやもなきぬるかりか白露のいろとる木ゝもゝみちあへなくに」38オ 021007501 春霞かすみていにしかりかねは今そなくなる秋きりのうへに 021107502 夜をさむみ衣かりかねなくなへに萩のしたはもうつろひにけり 000007503 このうたはある人のいはく柿本の人まろか也と 000007504 寛平御時きさいの宮の哥合のうた 000007505 藤原菅根朝臣 021207506 秋風にこゑをほにあけてくる舟はあまのとわたるかりにそありける 000007507 かりのなきけるをきゝてよめる 000007508 みつね 021307509 うき事を思ひつらねてかりかねのなきこそわたれ秋のよな/\ 000007510 これさたのみこの家の哥合のうた 000007511 たゝみね 021407512 山里は秋こそことにわひしけれしかのなくねにめをさましつゝ 000007513 よみ人しらす」38ウ 021507401 おく山に紅葉ふみわけなく鹿のこゑきく時そ秋は悲き 000007602 題しらす 021607603 秋はきにうらひれをれはあしひきの山したとよみしかのなくらむ 021707603a 秋はきをしからみふせてなくしかのめには見えすてをとのさやけさ 000007604 これさたのみこの家の哥合によめる 000007605 藤原としゆきの朝臣 021807606 あきはきの花さきにけり高砂のおのへのしかは今やなくらむ 000007607 むかしあひしりて侍ける人の秋のゝにあひて 000007608 物かたりしけるついてによめる 000007609 みつね 021907610 秋はきのふるえにさける花見れは本の心はわすれさりけり 000007611 題しらす よみ人しらす 022007612 あきはきのしたは色つく今よりやひとりある人のいねかてにする」39オ 022107701 なきわたるかりの涙やおちつ覧物思やとの萩のうへのつゆ 022207702 萩の露玉にぬかむとゝれはけぬよし見む人は枝なから見よ 000007703 ある人のいはくこの哥はならのみかとの御哥也と 022307704 おりて見はおちそしぬへき秋はきの枝もたわゝにをけるしらつゆ 022407705 萩か花ちる覧をのゝつゆしもにぬれてをゆかむさ夜はふくとも 000007706 是貞のみこの家の哥合によめる 000007707 文屋あさやす 022507708 秋のゝにをくしらつゆは玉なれやつらぬきかくるくものいとすち 000007709 題しらす 僧正へんせう 022607710 名にめてゝおれる許そをみなへし我おちにきと人にかたるな 000007711 僧正遍昭かもとにならへまかりける時におとこ」39ウ 000007801 山にてをみなへしを見てよめる 000007802 ふるのいまみち 022707803 をみなへしうしと見つゝそゆきすくるおとこ山にしたてりと思へは 000007804 是貞のみこの家の哥合のうた 000007805 としゆきの朝臣 022807806 秋のゝにやとりはすへしをみなへし名をむつましみたひならなくに 000007807 題しらす をのゝよし木 022907808 をみなへしおほかるのへにやとりせはあやなくあたの名をやたちなむ 000007809 朱雀院のをみなへしあはせによみてたて 000007810 まつりける 左のおほいまうちきみ 023007811 をみなへし秋のゝ風にうちなひき心ひとつをたれによす覧 000007812 藤原定方朝臣」40オ 023107901 秋ならてあふことかたきをみなへしあまのかはらにおひぬものゆへ 000007902 つらゆき 023207903 たか秋にあらぬものゆへをみなへしなそ色にいてゝまたきうつろふ 000007904 みつね 023307905 つまこふるしかそなくなる女郎花をのかすむのゝ花としらすや 023407906 女郎花ふきすきてくる秋風はめには見えねとかこそしるけれ 000007907 たゝみね 023507908 人の見る事やくるしきをみなへし秋きりにのみたちかくるらむ 023607909 ひとりのみなかむるよりは女郎花わかすむやとにうへて見ましを 000007910 ものへまかりけるに人の家にをみなへし 000007911 うへたりけるを見てよめる 000007902 兼覧王」40ウ 023708001 をみなへしうしろめたくも見ゆる哉あれたるやとにひとりたてれは 000008002 寛平御時蔵人所のをのこともさかのに花見む 000008003 とてまかりたりける時かへるとてみな哥よみ 000008004 けるついてによめる 000008005 平さたふん 023808006 花にあかてなにかへる覧をみなへしおほかるのへにねなましものを 000008007 これさたのみこの家の哥合によめる 000008008 としゆきの朝臣 023908009 なに人かきてぬきかけしふちはかまくる秋ことにのへをにほはす 000008010 ふちはかまをよみて人につかはしける 000008011 つらゆき 024008012 やとりせし人のかたみかふちはかまわすられかたきかにゝほひつゝ」41オ 000008101 ふちはかまをよめる 000008102 そせい 024108103 ぬしゝらぬかこそにほへれ秋のゝにたかぬきかけしふちはかまそも 000008104 題しらす 平貞文 024208105 今よりはうへてたに見し花すゝきほにいつる秋はわひしかりけり 000008106 寛平御時きさいの宮の哥合のうた 000008107 ありはらのむねやな 024308108 秋の野の草のたもとか花すゝきほにいてゝまねく袖と見ゆらむ 000008109 素性法師 024408110 我のみやあはれとおもはむきり/\すなくゆふかけのやまとなてしこ 000008111 題しらす よみ人しらす 024508112 みとりなるひとつ草とそ春は見し秋はいろ/\の花にそありける 024608113 もゝくさの花のひもとく秋のゝを思ひたはれむ人なとかめそ」41ウ 024708201 月草に衣はすらむあさつゆにぬれてのゝちはうつろひぬとも 000008202 仁和のみかとみこにおはしましける時ふるの 000008203 たき御覧せむとておはしましけるみちに 000008204 遍昭かはゝの家にやとりたまへりける時に庭 000008205 を秋のゝにつくりておほむ物かたりのついてに 000008206 よみてたてまつりける 000008207 僧正遍昭 024808208 さとはあれて人はふりにしやとなれや 024808209 庭もまかきも秋のゝらなる」42オ 000008301 古今和歌集巻第五 000008302 秋哥下 000008303 これさたのみこの家の哥合のうた 000008304 文屋やすひて 024908305 吹からに秋の草木のしほるれはむへ山かせをあらしといふらむ 025008306 草も木も色かはれともわたつうみの浪の花にそ秋なかりける 000008307 秋の哥合しける時によめる 000008308 紀よしもち 025108309 紅葉せぬときはの山は吹風のをとにや秋をきゝわたる覧 000008310 題しらす よみ人しらす」42ウ 025208401 霧立て雁そなくなる片岡の朝の原は紅葉しぬ覧 025308402 神な月時雨もいまたふらなくにかねてうつろふ神なひのもり 025408403 ちはやふる神なひ山のもみちはに思ひはかけしうつろふ物を 000008404 貞観御時綾綺殿のまへに梅の木ありけり 000008405 にしの方にさせりけるえたのもみちはしめ 000008406 たりけるをうへにさふらふをのことものよみける 000008407 ついてによめる 000008408 藤原かちをむ 025508409 おなしえをわきてこのはのうつろふは西こそ秋のはしめなりけれ 000008410 いしやまにまうてける時をとは山のもみち 000008411 を見てよめる つらゆき」43オ 025608501 秋風のふきにし日よりをとは山峯のこすゑも色つきにけり 000008502 これさたのみこの家の哥合によめる 000008503 としゆきの朝臣 025708504 白露の色はひとつをいかにして秋のこのはをちゝにそむ覧 000008505 壬生忠岑 025808506 秋の夜のつゆをはつゆとをきなからかりの涙やのへをそむらむ 000008507 題しらす よみ人しらす 025908508 あきのつゆいろ/\ことにをけはこそ山のこのはのちくさなるらめ 000008509 もる山のほとりにてよめる 000008510 つらゆき 026008511 しらつゆも時雨もいたくもる山はしたはのこらす色つきにけり 000008512 秋のうたとてよめる 在原元方」43ウ 026108601 雨ふれとつゆもゝらしをかさとりの山はいかてかもみちそめけむ 000008602 神のやしろのあたりをまかりける時にいかきの 000008603 うちのもみちを見てよめる 000008604 つらゆき 026208605 ちはやふる神のいかきにはふくすも秋にはあへすうつろひにけり 000008606 これさたのみこの家の哥合によめる 000008607 たゝみね 026308608 あめふれはかさとり山のもみちはゝゆきかふ人のそてさへそてる 000008609 寛平御時きさいの宮の哥合のうた 000008610 よみ人しらす 026408611 ちらねともかねてそおしきもみちはゝ今は限の色と見つれは 000008612 やまとのくにゝまかりける時さほ山にきりのたてりけるを見てよめる」44オ 000008701 きのとものり 026508702 たかための錦なれはか秋きりのさほの山辺をたちかくす覧 000008703 是貞のみこの家の哥合のうた 000008704 よみ人しらす 026608705 秋きりはけさはなたちそさほ山のはゝそのもみちよそにても見む 000008706 秋のうたとてよめる 000008707 坂上是則 026708708 佐保山のはゝその色はうすけれと秋は深くもなりにける哉 000008709 人のせんさいにきくにむすひつけてうへけるうた 000008710 在原なりひらの朝臣 026808711 うへしうへは秋なき時やさかさらむ花こそちらめねさへかれめや 000008712 寛平御時きくの花をよませたまうける」44ウ 000008801 としゆきの朝臣 026908802 久方の雲のうへにて見る菊はあまつほしとそあやまたれける 000008803 この哥はまた殿上ゆるされさりける時に 000008804 めしあけられてつかうまつれるとなむ 000008805 これさたのみこの家の哥合のうた 000008806 きのとものり 027008807 露なからおりてかさゝむきくの花おいせぬ秋のひさしかるへく 000008808 寛平御時きさいの宮の哥合のうた 000008809 大江千里 027108810 うへし時花まちとをにありしきくうつろふ秋にあはむとや見し 000008812 おなし御時せられけるきくあはせにすはまをつくりて」45オ 000008901 菊の花うへたりけるにくはへたりけるうた 000008902 ふきあけのはまのかたにきくうへたりけるによめる 000008903 すかはらの朝臣 027208904 秋風の吹あけにたてる白菊は花かあらぬか浪のよするか 000008905 仙宮に菊をわけて人のいたれるかたをよめる 000008906 素性法師 027308907 ぬれてほす山地の菊のつゆのまにいつかちとせを我はへにけむ 000008908 菊の花のもとにて人の人まてるかたをよめる 000008909 とものり 027408910 花見つゝ人まつ時はしろたへの袖かとのみそあやまたれける 000008911 おほさはの池のかたにきくうへたるをよめる」45ウ 027509001 ひともとゝ思しきくをおほさはの池のそこにもたれかうへけむ 000009002 世中のはかなきことを思けるおりにきくの花 000009003 を見てよみける 000009004 つらゆき 027609005 秋の菊にほふかきりはかさしてむ花よりさきとしらぬわか身を 000009006 しらきくの花をよめる 000009007 凡河内みつね 027709008 心あてにおらはやおらむはつしものをきまとはせる白菊の花 000009009 これさたのみこの家の哥合のうた 000009010 よみ人しらす 027809011 いろかはる秋のきくをはひとゝせにふたゝひにほふ花とこそ見れ 000009012 仁和寺にきくのはなめしける時にうたそへてたて」46オ 000009101 まつれとおほせられけれはよみてたてまつりける 000009102 平さたふん 027909103 秋をゝきて時こそ有けれ菊の花うつろふからに色のまされは 000009104 人の家なりけるきくの花をうつしうへたり 000009105 けるをよめる 000009106 つらゆき 028009107 さきそめしやとしかはれは菊の花色さへにこそうつろひにけれ 000009108 題しらす よみ人しらす 028109109 佐保山のはゝそのもみちゝりぬへみよるさへ見よとてらす月影 000009110 みやつかへひさしうつかうまつらて山さとにこもり 000009111 侍けるによめる 藤原関雄 028209112 おく山のいはかきもみちゝりぬへしてる日のひかり見る時なくて」46ウ 000009201 題しらす よみ人しらす 028309202 龍田河もみちみたれて流めりわたらは錦なかやたえなむ 000009203 この哥はある人ならのみかとの御哥也となむ申す 028409204 たつた河もみちは流神なひのみむろの山に時雨ふるらし 000009205 又はあすかゝはもみちはなかる 028509206 こひしくは見てもしのはむもみちはを吹なちらしそ山おろしのかせ 028609207 秋風にあへすちりぬるもみちはのゆくゑさためぬ我そかなしき 028709208 あきはきぬ紅葉はやとにふりしきぬ道ふみわけてとふ人はなし 028809209 ふみわけてさらにやとはむもみちはのふりかくしてしみちとみなから 028909210 秋の月山辺さやかにてらせるはおつるもみちのかすを見よとか」47オ 029009301 吹風の色のちくさに見えつるは秋のこのはのちれはなりけり 000009302 せきを 029109303 霜のたてつゆのぬきこそよはからし山の錦のをれはかつちる 000009304 うりむゐんの木のかけにたゝすみてよみける 029209305 わひ人のわきてたちよるこの本はたのむかけなくもみちちりけり 000009306 二条の后の春宮のみやす所と申ける時に御 000009307 屏風にたつた河にもみちなかれたるかたを 000009308 かけりけるを題にてよめる 000009309 そせい 029309310 もみちはのなかれてとまるみなとには紅深き浪や立らむ 000009311 なりひらの朝臣」47ウ 029409401 ちはやふる神世もきかす龍田河唐紅に水くゝるとは 000009402 これさたのみこの家の哥合のうた 000009403 としゆきの朝臣 029509404 わかきつる方もしられすくらふ山木ゝのこのはのちるとまかふに 000009405 たゝみね 029609406 神なひのみむろの山を秋ゆけは錦たちきる心地こそすれ 000009407 北山に紅葉おらむとてまかれりける時によめる 000009408 つらゆき 029709409 見る人もなくてちりぬるおく山の紅葉はよるのにしきなりけり 000009410 秋のうた かねみの王 029809411 龍田ひめたむくる神のあれはこそ秋のこのはのぬさとちるらめ」48オ 000009501 をのといふ所にすみ侍ける時もみちを見てよめる 000009502 つらゆき 029909503 秋の山紅葉をぬさとたむくれはすむ我さへそたひ心ちする 000009504 神なひの山をすきて龍田河をわたりける時に 000009505 もみちのなかれけるをよめる 000009506 きよはらのふかやふ 030009507 神なひの山をすき行秋なれはたつた河にそぬさはたむくる 000009508 寛平御時きさいの宮の哥合のうた 000009509 ふちはらのおきかせ 030109510 白浪に秋のこのはのうかへるをあまのなかせる舟かとそ見る 000009511 たつた河のほとりにてよめる 000009512 坂上これのり」48ウ 030209601 もみちはのなかれさりせは龍田河水の秋をはたれかしらまし 000009602 しかの山こえにてよめる 000009603 はるみちのつらき 030309604 山河に風のかけたるしからみは流もあへぬ紅葉なりけり 000009605 池のほとりにてもみちのちるをよめる 000009606 みつね 030409607 風ふけはおつるもみちは水きよみちらぬかけさへそこに見えつゝ 000009608 亭子院の御屏風のゑに河わたらむとする人の 000009609 もみちのちる木のもとにむまをひかへて 000009610 たてるをよませたまひけれはつかうまつりける 030509611 立とまり見てをわたらむもみちはゝ雨とふるとも水はまさらし」49オ 000009701 是貞のみこの家の哥合のうた 000009702 たゝみね 030609703 山田もる秋のかりいほにをくつゆはいなおほせ鳥の涙なりけり 000009704 題しらす よみ人しらす 030709705 ほにもいてぬ山田をもると藤衣いなはのつゆにぬれぬ日そなき 030809706 かれる田におふるひつちのほにいてぬは世を今更に秋はてぬとか 000009707 北山に僧正へんせうとたけかりにまかれりけるによめる 000009708 そせい法し 030909709 もみちはゝ袖にこきいれてもていてなむ秋は限と見む人のため 000009710 寛平御時ふるきうたゝてまつれとおほせられけれは 000009711 たつた河もみちはなかるといふ哥をかきてそのお 000009712 なし心をよめりける 000009713 おきかせ」49ウ 031009801 み山よりおちくる水の色見てそ秋は限と思しりぬる 000009802 秋のはつる心をたつた河に思ひやりてよめる 000009803 つらゆき 031109804 年ことにもみちはなかす龍田河みなとや秋のとまりなる覧 000009805 なか月のつこもりの日大井にてよめる 031209806 ゆふつく夜をくらの山になくしかのこゑの内にや秋はくるらむ 000009807 おなしつこもりの日よめる 000009808 みつね 031309809 道しらはたつねもゆかむもみちはをぬさとたむけて秋はいにけり」50オ 000009901 古今和歌集巻第六 000009902 冬哥 000009903 題しらす よみ人しらす 031409904 龍田河錦をりかく神な月しくれの雨をたてぬきにして 000009905 冬の哥とてよめる 000009906 源宗于朝臣 031509907 山里は冬そさひしさまさりける人めも草もかれぬと思へは 000009908 題しらす 読人しらす 031609909 おほそらの月のひかりしきよけれは影見し水そまつこほりける 031709910 ゆふされは衣手さむしみよしのゝよしのゝ山にみ雪ふるらし 031809911 今よりはつきてふら南わかやとのすゝきをしなみふれるしら雪」50ウ 031910001 ふる雪はかつそけぬらしあしひきの山のたきつせをとまさるなり 032010002 この河にもみちは流おく山の雪けの水そ今まさるらし 032110003 ふるさとはよしのゝ山しちかけれはひと日もみ雪ふらぬ日はなし 032210003b わかやとは雪ふりしきてみちもなしふみわけてとふ人しなけれは 000010004 冬のうたとて 000010005 紀貫之 032310006 雪ふれは冬こもりせる草も木も春にしられぬ花そさきける 000010007 しかの山こえにてよめる 000010008 紀あきみね 032410009 白雪のところもわかすふりしけはいはほにもさく花とこそ見れ 000010010 ならの京にまかれりける時にやとれりける所にて 000010011 よめる 坂上これのり」51オ 032510101 みよしのゝ山の白雪つもるらしふるさとさむくなりまさるなり 000010102 寛平御時きさいの宮の哥合のうた 000010103 ふちはらのおきかせ 032610104 浦ちかくふりくる雪は白浪の末の松山こすかとそ見る 000010105 壬生忠岑 032710106 みよしのゝ山の白雪ふみわけて入にし人のをとつれもせぬ 032810107 白雪のふりてつもれる山さとはすむ人さへや思ひきゆらむ 000010108 雪のふれるを見てよめる 000010109 凡河内みつね 032910110 ゆきふりて人もかよはぬみちなれやあとはかもなく思きゆ覧 000010111 ゆきのふりけるをよみける」51ウ 000010201 きよはらのふかやふ 033010202 冬なからそらより花のちりくるは雲のあなたは春にやあるらむ 000010203 雪の木にふりかゝれりけるをよめる 000010204 つらゆき 033110205 ふゆこもり思ひかけぬをこのまより花と見るまて雪そふりける 000010206 やまとのくにゝまかれりける時にゆきのふりけるを 000010207 見てよめる 坂上これのり 033210208 あさほらけありあけの月と見るまてによしのゝさとにふれるしらゆき 000010209 題しらす よみ人しらす 033310210 けぬかうへに又もふりしけ春霞たちなはみ雪まれにこそ見め 033410211 梅花それとも見えす久方のあまきる雪のなへてふれゝは」52オ 000010301 この哥はある人のいはく柿本人まろか哥也 000010302 梅花にゆきのふれるをよめる 000010303 小野たかむらの朝臣 033510304 花の色は雪にましりて見えすともかをたにゝほへ人のしるへく 000010305 雪のうちの梅花をよめる 000010306 きのつらゆき 033610307 梅のかのふりをける雪にまかひせはたれかこと/\わきておらまし 000010308 ゆきのふりけるを見てよめる 000010309 きのとものり 033710310 雪ふれは木ことに花そさきにけるいつれを梅とわきておらまし 000010311 物へまかりける人をまちてしはすのつこもりによめる 000010312 みつね 033810313 わかまたぬ年はきぬれと冬草のかれにし人はをとつれもせす」52ウ 000010401 年のはてによめる 000010402 在原もとかた 033910403 あらたまの年のをはりになることに雪もわか身もふりまさりつゝ 000010404 寛平御時きさいの宮の哥合のうた 000010405 よみ人しらす 034010406 雪ふりて年のくれぬる時こそつゐにもみちぬ松も見えけれ 000010407 年のはてによめる 000010408 はるみちのつらき 034110409 昨日といひけふとくらしてあすかゝは流てはやき月日なりけり 000010410 哥たてまつれとおほせられし時によみてたて 000010411 まつれる きのつらゆき 034210412 ゆく年のおしくもある哉ますかゝみ見るかけさへにくれぬと思へは」53オ 000010501 古今和歌集巻第七 000010502 賀哥 000010503 題しらす よみ人しらす 034310504 わか君は千世にやちよにさゝれいしのいはほとなりてこけのむすまて 034410505 渡つ海の浜のまさこをかそへつゝ君かちとせのありかすにせむ 034510506 しほの山さしてのいそにすむ千鳥きみかみ世をはやちよとそなく 034610507 わかよはひ君かやちよにとりそへてとゝめおきては思いてにせよ 000010508 仁和の御時僧正遍昭に七十賀たまひける時の御哥 034710509 かくしつゝとにもかくにもなからへて君かやちよにあふよしもかな 000010510 仁和のみかとのみこにおはしましける時に御をはの」53ウ 000010601 やそちの賀にしろかねをつゑにつくれりける 000010602 を見てかの御をはにかはりてよみける 000010603 僧正へんせう 034810604 ちはやふる神やきりけむつくからにちとせの坂もこえぬへら也 000010605 ほりかはのおほいまうちきみの四十賀九条の 000010606 家にてしける時によめる 000010607 在原業平朝臣 034910608 さくら花ちりかひくもれおいらくのこむといふなる道まかふかに 000010609 さたときのみこのをはのよそちの賀を大井 000010610 にてしける日よめる 000010611 きのこれをか」54オ 035010701 亀の尾の山のいはねをとめておつるたきの白玉千世のかすかも 000010702 さたやすのみこのきさいの宮の五十の賀たて 000010703 まつりける御屏風にさくらの花のちるしたに 000010704 人の花見たるかたかけるをよめる 000010705 ふちはらのおきかせ 035110706 いたつらにすくす月日はおもほえて花見てくらす春そすくなき 000010707 もとやすのみこの七十の賀のうしろの屏風に 000010708 よみてかきける 000010709 きのつらゆき 035210710 春くれはやとにまつさく梅花君かちとせのかさしとそ見る 000010711 そせい法し」54ウ 035310801 いにしへにありきあらすはしらねともちとせのためし君にはしめむ 035410802 ふしておもひおきてかそふるよろつよは神そしるらむわかきみのため 000010803 藤原三善か六十賀によみける 000010804 在原しけはる 035510805 鶴亀もちとせのゝちはしらなくにあかぬ心にまかせはてゝむ 000010806 この哥はある人在原のときはるかともいふ 000010807 よしみねのつねなりかよそちの賀にむすめに 000010808 かはりてよみ侍ける 000010809 そせい法し 035610810 よろつ世を松にそ君をいはひつるちとせのかけにすまむと思へは 000010811 内侍のかみの右大将ふちはらの朝臣の四十賀し」55オ 000010901 ける時に四季のゑかけるうしろの屏風に 000010902 かきたりけるうた 035710903 かすかのにわかなつみつゝよろつ世をいはふ心は神そしる覧 035810904 山たかみくもゐに見ゆるさくら花心の行ておらぬ日そなき 000010905 夏 035910906 めつらしきこゑならなくに郭公こゝらの年をあかすもある哉 000010907 秋 036010908 住の江の松を秋風吹からにこゑうちそふるおきつ白浪 036110909 千鳥なくさほの河きりたちぬらし山のこのはも色まさりゆく」55ウ 036211001 秋くれと色もかはらぬときは山よそのもみちを風そかしける 000011002 冬 036311003 白雪のふりしく時はみよしのゝ山した風に花そちりける 000011004 春宮のむまれたまへりける時にまいりてよめる 000011005 典侍藤原よるかの朝臣 036411006 峯たかきかすかの山にいつる日はくもる時なくてらすへらなり」56オ 000011101 古今和歌集巻第八 000011102 離別哥 000011103 題しらす 在原行平朝臣 036511104 立わかれいなはの山の峯におふる松としきかは今かへりこむ 000011105 よみ人しらす 036611106 すかるなく秋のはきはらあさたちて旅行人をいつとかまたむ 036711107 限なき雲ゐのよそにわかるとも人を心におくらさむやは 000011108 をのゝちふるかみちのくのすけにまかりける時に 000011109 はゝのよめる 036811110 たらちねのおやのまもりとあひそふる心許はせきなとゝめそ 000011111 さたときのみこの家にてふちはらのきよふかあふみの」56ウ 000011201 すけにまかりける時にむまのはなむけしける 000011202 夜よめる きのとしさた 036911203 けふわかれあすはあふみとおもへとも夜やふけぬ覧袖のつゆけき 000011204 こしへまかりける人によみてつかはしける 037011205 かへる山ありとはきけと春霞立別なはこひしかるへし 000011206 人のむまのはなむけにてよめる 000011207 きのつらゆき 037111208 おしむからこひしき物を白雲のたちなむのちはなに心地せむ 000011209 ともたちの人のくにへまかりけるによめる 000011210 在原しけはる 037211211 わかれてはほとをへたつとおもへはやかつ見なからにかねてこひしき」57オ 000011301 あつまの方へまかりける人によみてつかはしける 000011302 いかこのあつゆき 037311303 おもへとも身をしわけねはめに見えぬ心を君にたくへてそやる 000011304 あふさかにて人をわかれける時によめる 000011305 なにはのよろつを 037411306 相坂の関しまさしき物ならはあかすわかるゝ君をとゝめよ 000011307 題しらす よみ人しらす 037511308 唐衣たつ日はきかしあさつゆのをきてしゆけはけぬへき物を 000011309 このうたはある人つかさをたまはりてあたら 000011310 しきめにつきてとしへてすみける人をすてゝ 000011311 たゝあすなむたつと許いへりける時にともかうもいはて 000011312 よみてつかはしける」57ウ 000011401 ひたちへまかりける時にふちはらのきみとしに 000011402 よみてつかはしける 000011403 寵 037611404 あさなけに見へきゝみとしたのまねは思ひたちぬる草枕なり 000011405 きのむねさたかあつまへまかりける時に人の 000011406 家にやとりて暁いてたつとてまかり申しけ 000011407 れは女のよみていたせりける 000011408 よみ人しらす 037711409 えそしらぬ今心見よいのちあらは我やわするゝ人やとはぬと 000011410 あひしりて侍ける人のあつまの方へまかりける 000011411 をゝくるとてよめる 000011412 ふかやふ」58オ 037811501 雲井にもかよふ心のをくれねはわかると人に見ゆ許也 000011502 とものあつまへまかりける時によめる 000011503 よしみねのひてをか 037911504 白雲のこなたかなたに立わかれ心をぬさとくたくたひかな 000011505 みちのくにへまかりける人によみてつかはしける 000011506 つらゆき 038011507 しらくものやへにかさなるをちにてもおもはむ人に心へたつな 000011508 人をわかれける時によみける 038111509 わかれてふ事はいろにもあらなくに心にしみてわひしかるらむ 000011510 あひしれりける人のこしのくにゝまかりてとし 000011511 へて京にまうてきて又かへりける時によめる」58ウ 000011601 凡河内みつね 038211602 かへる山なにそはありてあるかひはきてもとまらぬ名にこそありけれ 000011603 こしのくにへまかりける人によみてつかはしける 038311604 よそにのみこひやわたらむしら山の雪見るへくもあらぬわか身は 000011605 をとはの山のほとりにて人をわかるとてよめる 000011606 つらゆき 038411607 をとは山こたかくなきて郭公君か別をおしむへら也 000011608 藤原のゝちかけかからものゝつかひになか月の 000011609 つこもりかたにまかりけるにうへのをのことも 000011610 さけたうひけるついてによめる 000011611 ふちはらのかねもち 038511612 もろともになきてとゝめよ蛬秋のわかれはおしくやはあらぬ」59オ 000011701 平もとのり 038611702 秋霧のともにたちいてゝわかれなははれぬ思ひに恋や渡む 000011703 源のさねかつくしへゆあみむとてまかりけるに 000011704 山さきにてわかれおしみける所にてよめる 000011705 しろめ 038711706 いのちたに心にかなふ物ならはなにか別のかなしからまし 000011707 山さきより神なひのもりまてをくりに人/\ 000011708 まかりてかへりかてにしてわかれおしみけるに 000011709 よめる 源さね 038811710 人やりの道ならなくにおほかたはいきうしといひていさ帰なむ 000011711 今はこれよりかへりねとさねかいひけるおりによみける」59ウ 000011801 藤原かねもち 038911802 したはれてきにし心の身にしあれは帰さまには道もしられす 000011803 藤原のこれをかゝむさしのすけにまかりける 000011804 時にをくりにあふさかをこゆとてよみける 000011805 つらゆき 039011806 かつこえてわかれもゆくかあふさかは人たのめなる名にこそありけれ 000011807 おほえのちふるかこしへまかりけるむまのはな 000011808 むけによめる 000011809 藤原かねすけの朝臣 039111810 君かゆくこしのしら山しらねとも雪のまに/\あとはたつねむ 000011811 人の花山にまうてきてゆふさりつかたかへりなむ 000011812 としける時によめる」60オ 000011901 僧正遍昭 039211902 ゆふくれのまかきは山と見えなゝむよるはこえしとやとりとるへく 000011903 山にのほりてかへりまうてきて人/\わかれ 000011904 けるついてによめる 000011905 幽仙法師 039311906 別をは山のさくらにまかせてむとめむとめしは花のまに/\ 000011907 うりむゐんのみこの舎利会に山にのほりて 000011908 かへりけるにさくらの花のもとにてよめる 000011909 僧正へんせう 039411910 山かせにさくらふきまきみたれなむ花のまきれにたちとまるへく 000011911 幽仙法師」60ウ 039512001 ことならは君とまるへくにほは南かへすは花のうきにやはあらぬ 000012002 仁和のみかとみこにおはしましける時に 000012003 ふるのたき御覧しにおはしましてかへりたまひ 000012004 けるによめる 000012005 兼芸法し 039612006 あかすしてわかるゝ涙瀧にそふ水まさるとやしもは見る覧 000012007 かむなりのつほにめしたりける日おほみき 000012008 なとたうへてあめのいたくふりけれはゆふ 000012009 さりまて侍てまかりいてけるおりにさか月をとりて 000012010 つらゆき 039712011 秋はきの花をは雨にぬらせとも君をはましておしとこそおもへ」61オ 000012101 とよめりけるかへし 000012102 兼覧王 039812103 おしむらむ人の心をしらぬまに秋の時雨と身そふりにける 000012104 かねみのおほきみにはしめて物かたりして 000012105 わかれける時によめる 000012106 みつね 039912107 わかるれとうれしくもあるかこよひよりあひ見ぬさきになにをこひまし 000012108 題しらす よみ人しらす 040012109 あかすしてわかるゝそてのしらたまを君かゝたみとつゝみてそ行 040112110 限なく思ふ涙にそほちぬる袖はかはかしあはむ日まてに 040212111 かきくらしことはふら南春雨にぬれきぬきせて君をとゝめむ」61ウ 040312201 しゐて行人をとゝめむ桜花いつれを道と迷まてちれ 000012202 しかの山こえにていしゐのもとにてものいひ 000012203 ける人のわかれけるおりによめる 000012204 つらゆき 040412205 むすふてのしつくにゝこる山の井のあかても人にわかれぬるかな 000012206 みちにあへりける人のくるまにものを 000012207 いひつきてわかれける所にてよめる 000012208 とものり 040512209 したのおひのみちはかた/\わかるとも行めくりてもあはむとそ思」62オ 000012301 古今和歌集巻第九 000012302 羈旅哥 000012303 もろこしにて月を見てよみける 000012304 安倍仲麿 040612305 あまの原ふりさけ見れはかすかなるみかさの山にいてし月かも 000012306 この哥はむかしなかまろをもろこしにもの 000012307 ならはしにつかはしたりけるにあまたのとしを 000012308 へてえかへりまうてこさりけるをこのくにより 000012309 又つかひまかりいたりけるにたくひてまうてき 000012310 なむとていてたちけるにめいしうといふ所の 000012311 うみへにてかのくにの人むまのはなむけ」62ウ 000012401 しけりよるになりて月のいとおもしろく 000012402 さしいてたりけるを見てよめるとなむ 000012403 かたりつたふる 000012404 おきのくにゝなかされける時に舟にのりて 000012405 いてたつとて京なる人のもとにつかはしける 000012406 小野たかむらの朝臣 040712407 わたのはらやそしまかけてこきいてぬと人にはつけよあまのつり舟 000012408 題しらす よみ人しらす 040812409 都いてゝ今日みかの原いつみ河かは風さむし衣かせ山 040912410 ほの/\と明石の浦の朝霧に島かくれ行舟をしそ思 000012411 このうたはある人のいはく柿本人麿か哥也」63オ 000012501 あつまの方へ友とする人ひとりふたりいさなひて 000012502 いきけりみかはのくにやつはしといふ所にいた 000012503 りけるにその河のほとりにかきつはたいと 000012504 おもしろくさけりけるを見て木のかけに 000012505 おりゐてかきつはたといふいつもしをくのか 000012506 しらにすへてたひの心をよまむとてよめる 000012507 在原業平朝臣 041012508 唐衣きつゝなれにしつましあれははる/\きぬるたひをしそ思 000012509 むさしのくにとしもつふさのくにとの中に 000012510 あるすみた河のほとりにいたりてみやこのいと 000012511 こひしうおほえけれはしはし河のほとりに」63ウ 000012601 おりゐて思ひやれはかきりなくとをくもきに 000012602 けるかなと思ひわひてなかめをるにわたし 000012603 もりはや舟にのれ日くれぬといひけれは 000012604 舟にのりてわたらむとするにみな人もの 000012605 わひしくて京におもふ人なくしもあらす 000012606 さるおりにしろきとりのはしとあしとあか 000012607 き河のほとりにあそひけり京には見え 000012608 ぬとりなりけれはみな人見しらすわたし 000012609 もりにこれはなにとりそとゝひけれは 000012610 これなむみやことりといひけるをきゝてよめる」64オ 041112701 名にしおはゝいさ事とはむ宮ことりわか思ふ人はありやなしやと 000012702 題しらす よみ人しらす 041212703 北へ行かりそなくなるつれてこしかすはたらてそかへるへらなる 000012704 このうたはある人おとこ女もろともに人の 000012705 くにへまかりけりおとこまかりいたりてすな 000012706 はち身まかりにけれは女ひとり京へかへ 000012707 りけるみちにかへるかりのなきけるをきゝて 000012708 よめるとなむいふ 000012709 あつまの方より京へまうてくとてみちにて 000012710 よめる おと 041312711 山かくす春の霞そうらめしきいつれみやこのさかひなる覧」64ウ 000012801 こしのくにへまかりける時しら山を見てよめる 000012802 みつね 041412803 きえはつる時しなけれはこしちなる白山の名は雪にそありける 000012804 あつまへまかりける時みちにてよめる 000012805 つらゆき 041512806 いとによる物ならなくにわかれちの心ほそくもおもほゆる哉 000012807 かひのくにへまかりける時みちにてよめる 000012808 みつね 041612809 夜をさむみをくはつ霜をはらひつゝ草の枕にあまたゝひねぬ 000012810 たちまのくにのゆへまかりける時にふたみの 000012811 うらといふ所にとまりてゆふさりのかれいひ」65オ 000012901 たうへけるにともにありける人/\のうたよみ 000012902 けるついてによめる 000012903 ふちはらのかねすけ 041712904 ゆふつくよおほつかなきを玉匣ふたみの浦は曙てこそ見め 000012905 これたかのみこのともにかりにまかりける時に 000012906 あまの河といふ所の河のほとりにおりゐて 000012907 さけなとのみけるついてにみこのいひけらく 000012908 かりしてあまのかはらにいたるといふ心をよみ 000012909 てさかつきはさせといひけれはよめる 000012910 在原なりひらの朝臣 041812911 かりくらしたなはたつめにやとからむあまのかはらに我はきにけり」65ウ 000013001 みこゝのうたを返ゝよみつゝ返しえせす 000013002 なりにけれはともに侍てよめる 000013003 きのありつね 041913004 ひとゝせにひとたひきます君まてはやとかす人もあらしとそ思 000013005 朱雀院のならにおはしましたりける時に 000013006 たむけ山にてよみける 000013007 すかはらの朝臣 042013008 このたひはぬさもとりあへすたむけ山紅葉の錦神のまに/\ 000013009 素性法師 042113010 たむけにはつゝりの袖もきるへきにもみちにあける神やかへさむ」66オ 000013101 古今和歌集巻第十 000013102 物名 000013103 うくひす 藤原としゆきの朝臣 042213104 心から花のしつくにそほちつゝうくひすとのみ鳥のなくらむ 000013105 ほとゝきす 042313106 くへきほとゝきすきぬれやまちわひてなくなるこゑの人をとよむる 000013107 うつせみ 在原しけはる 042413108 浪のうつせみれはたまそみたれけるひろはゝそてにはかなからむや 000013109 返し 壬生忠岑 042513110 たもとよりはなれて玉をつゝまめやこれ南それとうつせ見むかし 000013111 うめ よみ人しらす」66ウ 042613201 あなうめにつねなるへくも見えぬかなこひしかるへきかはにほひつゝ 000013202 かにはさくら つらゆき 042713203 かつけとも浪のなかにはさくられて風吹ことにうきしつむたま 000013204 すもゝのはな 042813205 今いくか春しなけれはうくひすもゝのはなかめて思へら也 000013206 からもゝのはな ふかやふ 042913207 あふからもゝのはなをこそかなしけれわかれむ事をかねて思へは 000013208 たちはな をのゝしけかけ 043013209 葦引の山たちはなれ行雲のやとりさためぬ世にこそ有けれ 000013210 をかたまの木 とものり 043113211 みよしのゝよしのゝたきにうかひいつるあわをかたまのきゆと見つらむ」67オ 000013301 やまかきの木 よみ人しらす 043213302 秋はきぬいまやまかきのきり/\すよな/\なかむ風のさむさに 000013303 あふひかつら 043313304 かく許あふひのまれになる人をいかゝつらしとおもはさるへき 043413305 人めゆへのちにあふひのはるけくはわかつらきにや思ひなされむ 000013306 くたに 僧正へんせう 043513307 ちりぬれはのちはあくたになる花を思ひしらすもまとふてふかな 000013308 さうひ つらゆき 043613309 我はけさうひにそ見つる花の色をあたなる物といふへかりけり 000013310 をみなへし とものり 043713311 白露を玉にぬくやとさゝかにの花にも葉にもいとをみなへし」67ウ 043813401 あさ露をわけそほちつゝ花見むと今その山をみなへしりぬる 000013402 朱雀院のをみなへしあはせの時にをみなへ 000013403 しといふいつもしをくのかしらにをきてよめる 000013404 つらゆき 043913405 をくら山みねたちならしなくしかのへにけむ秋をしる人そなき 000013406 きちかうの花 とものり 044013407 秋ちかうのはなりにけり白露のをけるくさはも色かはりゆく 000013408 しをに よみ人しらす 044113409 ふりはへていさふるさとの花見むとこしをにほひそうつろひにける 000013410 りうたむのはな とものり 044213411 わかやとの花ふみしたくとりうたむのはなけれはやこゝにしもくる」68オ 000013501 おはな よみ人しらす 044313502 ありと見てたのむそかたきうつせみの世をはなしとや思ひなしてむ 000013503 けにこし やたへの名実 044413504 うちつけにこしとや花の色を見むをく白露のそむるはかりを 000013505 二条の后春宮のみやすん所と申しける時に 000013506 めとにけつり花させりけるをよませたまひける 000013507 文屋やすひて 044513508 花の木にあらさらめともさきにけりふりにしこのみなるときも哉 000013509 しのふくさ きのとしさた 044613510 山たかみつねに嵐の吹さとはにほひもあへす花そちりける 000013511 やまし 平あつゆき 044713512 郭公みねのくもにやましりにしありとはきけと見るよしもなき」68ウ 000013601 からはき よみ人しらす 044813602 空蝉のからは木ことにとゝむれとたまのゆくゑを見ぬそかなしき 000013603 かはなくさ ふかやふ 044913604 うはたまの夢になにかはなくさまむうつゝにたにもあかぬ心は 000013605 さかりこけ たかむこのとしはる 045013606 花の色はたゝひとさかりこけれとも返ゝそつゆはそめける 000013607 にかたけ しけはる 045113608 いのちとてつゆをたのむにかたけれは物わひしらになくのへのむし 000013609 かはたけ かけのりのおほきみ 045213610 さ夜ふけてなかはたけゆく久方の月ふきかへせ秋の山風 000013611 わらひ 真せいほうし」69オ 045313701 煙たちもゆとも見えぬ草のはをたれかわらひとなつけそめけむ 000013702 さゝ まつ ひは はせをは 000013703 きのめのと 045413704 いさゝめに時まつまにそひはへぬる心はせをは人に見えつゝ 000013705 なし なつめ くるみ 000013706 兵衛 045513707 あちきなしなけきなつめそうき事にあひくる身をはすてぬものから 000013708 からことゝいふ所にて春のたちける日よめる 000013709 安倍清行朝臣 045613710 浪のをとのけさからことにきこゆるは春のしらへや改るらむ 000013711 いかゝさき 兼覧王 045713712 かちにあたる浪のしつくを春なれはいかゝさきちる花と見さらむ」69ウ 000013801 からさき あほのつねみ 045813802 かの方にいつからさきにわたりけむ浪ちはあとものこらさりけり 000013803 伊勢 045913804 浪の花おきからさきてちりくめり水の春とは風やなるらむ 000013805 かみやかは つらゆき 046013806 うはたまのわかくろかみやかはるらむ鏡の影にふれるしらゆき 000013807 よとかは 046113808 あしひきの山へにをれは白雲のいかにせよとかはるゝ時なき 000013809 かたの たゝみね 046213810 夏草のうへはしけれるぬま水のゆくかたのなきわか心かな」70オ 000013901 かつらのみや 源ほとこす 046313902 秋くれは月のかつらのみやはなるひかりを花とちらすはかりを 000013903 百和香 よみ人しらす 046413904 花ことにあかすちらしゝ風なれはいくそはくわかうしとかは思 000013905 すみなかし しけはる 046513906 春かすみなかしかよひちなかりせは秋くるかりはかへらさらまし 000013907 をきひ みやこのよしか 046613908 流いつる方たに見えぬ涙河おきひむ時やそこはしられむ 000013909 ちまき 大江千里 046713910 のちまきのをくれておふるなへなれとあたにはならぬたのみとそきく」70ウ 000014001 はをはしめるをはてにてなかめをかけて 000014002 時のうたよめと人のいひけれはよみける 000014003 僧正聖宝 046814004 花のなかめにあくやとてわけゆけは心そともにちりぬへらなる」71オ 000014301 古今和歌集巻第十一 000014302 恋哥一 000014303 題しらす 読人しらす 046914304 郭公なくやさ月のあやめくさあやめもしらぬこひもする哉 000014305 素性法師 047014306 をとにのみきくの白露よるはおきてひるは思ひにあへすけぬへし 000014307 紀貫之 047114308 吉野河いは浪たかく行水のはやくそ人を思そめてし 000014309 藤原勝臣 047214310 白浪のあとなき方に行舟も風そたよりのしるへなりける」72ウ 000014401 在原元方 047314402 をとは山おとにきゝつゝ相坂の関のこなたに年をふる哉 047414403 立帰りあはれとそ思よそにても人に心をおきつ白浪 000014404 つらゆき 047514405 世中はかくこそ有けれ吹風のめに見ぬ人もこひしかりけり 000014406 右近のむまはのひをりの日むかひにたてたり 000014407 けるくるまのしたすたれより女のかほのほのか 000014408 に見えけれはよむてつかはしける 000014409 在原業平朝臣 047614410 見すもあらす見もせぬ人のこひしくはあやなくけふやなかめくらさむ 000014411 返し よみ人しらす」73オ 047714501 しるしらぬなにかあやなくわきていはむ思ひのみこそしるへなりけれ 000014502 かすかのまつりにまかれりける時に物見にいてたり 000014503 ける女のもとに家をたつねてつかはせりける 000014504 みふのたゝみね 047814505 かすかのゝゆきまをわけておひいてくる草のはつかに見えしきみはも 000014506 人の花つみしける所にまかりてそこなり 000014507 ける人のもとにのちによみてつかはしける 000014508 つらゆき 047914509 山さくら霞のまよりほのかにも見てし人こそこひしかりけれ 000014510 題しらす もとかた 048014511 たよりにもあらぬおもひのあやしきは心を人につくるなりけり」73ウ 000014601 凡河内みつね 048114602 はつかりのはつかにこゑをきゝしより中そらにのみ物を思哉 000014603 つらゆき 048214604 逢事はくもゐはるかになる神のをとにきゝつゝこひ渡哉 000014605 読人しらす 048314606 かたいとをこなたかなたによりかけてあはすはなにをたまのをにせむ 048414607 夕くれは雲のはたてに物そ思あまつそらなる人をこふとて 048514608 かりこもの思ひみたれて我こふといもしるらめや人しつけすは 048614609 つれもなき人をやねたくしらつゆのおくとはなけきぬとはしのはむ 048714610 ちはやふるかもの社のゆふたすきひと日も君をかけぬ日はなし」74オ 048814701 わかこひはむなしきそらにみちぬらし思ひやれともゆく方もなし 048914702 するかなるたこの浦浪たゝぬひはあれとも君をこひぬ日はなし 049014703 ゆふつく夜さすやをかへの松のはのいつともわかぬこひもする哉 049114704 葦引の山した水のこかくれてたきつ心をせきそかねつる 049214705 吉野河いはきりとおし行水のをとにはたてしこひはしぬとも 049314706 たきつせのなかにもよとはありてふをなとわかこひのふちせともなき 049414707 山高みした行水のしたにのみ流てこひむこひはしぬとも 049514708 思いつるときはの山のいはつゝしいはねはこそあれこひしき物を 049614709 人しれすおもへはくるし紅のすゑつむ花のいろにいてなむ 049714710 秋の野のおはなにましりさく花のいろにやこひむあふよしをなみ」74ウ 049814801 わかそのゝ梅のほつえに鶯のねになきぬへきこひもする哉 049914802 あしひきの山郭公わかことや君にこひつゝいねかてにする 050014803 夏なれはやとにふすふるかやり火のいつまてわか身したもえをせむ 050114804 恋せしとみたらし河にせしみそき神はうけすそなりにけらしも 050214805 あはれてふ事たになくはなにをかは恋のみたれのつかねをにせむ 050314806 おもふには忍る事そまけにける色にはいてしとおもひし物を 050414807 わかこひを人しるらめや敷妙の枕のみこそしらはしるらめ 050514808 あさちふのをのゝしの原しのふとも人しるらめやいふ人なしに 050614809 人しれぬ思ひやなそとあしかきのまちかけれともあふよしのなき」75オ 050714901 思ふともこふともあはむ物なれやゆふてもたゆくとくるしたひも 050814902 いて我を人なとかめそおほ舟のゆたのたゆたに物思ころそ 050914903 伊勢の海につりするあまのうけなれや心ひとつを定かねつる 051014904 いせのうみのあまのつりなは打はへてくるしとのみや思渡らむ 051114905 涙河何みなかみを尋釼物思時のわか身なりけり 051214906 たねしあれはいはにも松はおひにけり恋をしこひはあはさらめやは 051314907 あさな/\立河霧のそらにのみうきて思ひのある世なりけり 051414908 わすらるゝ時しなけれはあしたつの思みたれてねをのみそなく 051514909 唐衣ひもゆふくれになる時は返ゝそ人はこひしき 051614910 よゐ/\に枕さためむ方もなしいかにねし夜か夢に見え釼」75ウ 051715001 恋しきに命をかふる物ならはしにはやすくそあるへかりける 051815002 人の身もならはし物をあはすしていさ心見むこひやしぬると 051915003 忍れは苦き物を人しれす思ふ蝶事誰にかたらむ 052015004 こむ世にもはや成なゝむ目の前につれなき人を昔とおもはむ 052115005 つれもなき人をこふとて山ひこのこたへするまてなけきつる哉 052215006 ゆく水にかすかくよりもはかなきはおもはぬ人を思なりけり 052315007 人を思心は我にあらねはや身の迷たにしられさる覧 052415008 思やるさかひはるかになりやするまとふ夢ちにあふ人のなき 052515009 夢の内にあひ見む事をたのみつゝくらせるよゐはねむ方もなし 052615010 こひしねとするわさならしむはたまのよるはすからに夢に見つゝ」76オ 052715101 涙河枕なかるゝうきねには夢もさたかに見えすそありける 052815102 恋すれはわか身は影と成にけりさりとて人にそはぬ物ゆへ 052915103 篝火にあらぬわか身のなそもかく涙の河にうきてもゆ覧 053015104 かゝり火の影となる身のわひしきは流てしたにもゆるなりけり 053115105 はやきせに見るめおひせはわか袖の涙の河にうへまし物を 053215106 おきへにもよらぬたまもの浪のうへにみたれてのみやこひ渡南 053315107 あしかものさはく入江の白浪のしらすや人をかくこひむとは 053415108 人しれぬ思ひをつねにするかなるふしの山こそわか身なりけれ 053515109 とふとりのこゑもきこえぬ奥山のふかき心を人はしら南 053615110 相坂のゆふつけとりもわかことく人やこひしきねのみなく覧」76ウ 053715201 相坂の関になかるゝいはし水いはて心に思こそすれ 053815202 うき草のうへはしけれるふちなれや深き心をしる人のなき 053915203 打わひてよはゝむ声に山ひこのこたへぬ山はあらしとそ思 054015204 心かへする物にもかゝたこひはくるしき物と人にしらせむ 054115205 よそにしてこふれはくるしいれひものおなし心にいさむすひてむ 054215206 春たてはきゆる氷ののこりなく君か心は我にとけなむ 054315207 あけたては蝉のおりはへなきくらしよるはほたるのもえこそわたれ 054415208 夏虫の身をいたつらになすこともひとつ思ひによりてなりけり 054515209 ゆふされはいとゝひかたきわかそてに秋のつゆさへをきそはりつゝ 054615210 いつとてもこひしからすはあらねとも秋のゆふへはあやしかりけり」77オ 054715301 秋の田のほにこそ人をこひさらめなとか心に忘しもせむ 054815302 あきのたのほのうへをてらすいなつまのひかりのまにも我やわするゝ 054915303 人めもる我かはあやな花すゝきなとかほにいてゝこひすしもあらむ 055015304 あは雪のたまれはかてにくたけつゝわか物思ひのしけきころかな 055115305 奥山の菅のねしのきふる雪のけぬとかいはむこひのしけきに」77ウ 000015401 古今和歌集巻第十二 000015402 恋哥二 000015403 題しらす 小野小町 055215404 思つゝぬれはや人の見えつ覧夢としりせはさめさらましを 055315405 うたゝねに恋しきひとを見てしより夢てふ物は憑そめてき 055415406 いとせめてこひしき時はむは玉のよるの衣を返してそきる 000015407 素性法師 055515408 秋風の身にさむけれはつれもなき人をそたのむくるゝ夜ことに 000015409 しもついつもてらに人のわさしける日真 000015410 せい法しのたうしにていへりける事を哥によみて」78オ 000015501 をのゝこまちかもとにつかはしける 000015502 あへのきよゆきの朝臣 055615503 つゝめとも袖にたまらぬ白玉は人を見ぬめの涙なりけり 000015504 返し こまち 055715505 をろかなる涙そゝてに玉はなす我はせきあへすたきつせなれは 000015506 寛平御時きさいの宮の哥合のうた 000015507 藤原としゆきの朝臣 055815508 恋わひて打ちぬる中に行かよふ夢のたゝちはうつゝならなむ 055915509 住の江の岸による浪よるさへやゆめのかよひち人めよく覧 000015510 をのゝよしき 056015511 わかこひはみ山かくれの草なれやしけさまされとしる人のなき」78ウ 000015601 紀とものり 056115602 夜ゐのまもはかなく見ゆる夏虫に迷まされるこひもする哉 056215603 ゆふされは蛍よりけにもゆれともひかり見ねはや人のつれなき 056315604 さゝのはにをく霜よりもひとりぬるわか衣手そさえまさりける 056415605 わかやとの菊のかきねにをくしものきえかへりてそこひしかりける 056515606 河のせになひくたまものみかくれて人にしられぬこひもする哉 000015607 みふのたゝみね 056615608 かきくらしふる白雪のしたきえにきえて物思ころにもある哉 000015609 藤原おきかせ 056715610 君こふる涙のとこにみちぬれはみをつくしとそ我はなりぬる 056815611 しぬるいのちいきもやすると心見に玉のを許あはむといはなむ」79オ 056915701 わひぬれはしひてわすれむと思へとも夢といふ物そ人たのめなる 000015702 よみ人しらす 057015703 わりなくもねてもさめてもこひしきか心をいつちやらはわすれむ 057115704 恋しきにわひてたましひ迷なはむなしきからのなにやのこ覧 000015705 紀つらゆき 057215706 君こふる涙しなくは唐衣むねのあたりは色もえなまし 000015707 題しらす 057315708 世とゝもに流てそ行涙河冬もこほらぬみなわなりけり 057415709 夢ちにもつゆやをく覧よもすからかよへる袖のひちてかはかぬ 000015710 そせい法し 057515711 はかなくて夢にも人を見つる夜は朝のとこそおきうかりける」79ウ 000015801 藤原たゝふさ 057615802 いつはりの涙なりせは唐衣しのひに袖はしほらさらまし 000015803 大江千里 057715804 ねになきてひちにしかとも春さめにぬれにし袖とゝはゝこたへむ 000015805 としゆきの朝臣 057815806 わかことく物やかなしき郭公時そともなくよたゝなく覧 000015807 つらゆき 057915808 さ月山こすゑをたかみ郭公なくねそらなるこひもする哉 000015809 凡河内みつね 058015810 秋きりのはるゝ時なき心にはたちゐのそらもおもほえなくに 000015811 清原ふかやふ 058115812 虫のこと声にたてゝはなかねとも涙のみこそしたになかるれ」80オ 000015901 これさたのみこの家の哥合のうた 000015902 よみ人しらす 058215903 秋なれは山とよむまてなくしかに我おとらめやひとりぬるよは 000015904 題しらす つらゆき 058315905 秋のゝにみたれてさける花の色のちくさに物を思ころ哉 000015906 みつね 058415907 ひとりして物をおもへは秋のよのいなはのそよといふ人のなき 000015908 ふかやふ 058515909 人を思心はかりにあらねともくもゐにのみもなきわたる哉 000015910 たゝみね 058615911 秋風にかきなすことのこゑにさへはかなく人のこひしかる覧 000015912 つらゆき」80ウ 058716001 まこもかるよとのさは水雨ふれはつねよりことにまさるわかこひ 000016002 やまとに侍ける人につかはしける 058816003 こえぬまはよしのゝ山のさくら花人つてにのみきゝわたる哉 000016004 やよひはかりに物のたうひける人のもとに 000016005 又人まかりつゝせうそこすときゝてつかはしける 058916006 露ならぬ心を花にをきそめて風吹ことに物思そつく 000016007 題しらす 坂上これのり 059016008 わかこひにくらふの山のさくら花まなくちるともかすはまさらし 000016009 むねをかのおほより 059116010 冬河のうへはこほれる我なれやしたになかれてこひわたるらむ」81オ 000016101 たゝみね 059216102 たきつせにねさしとゝめぬうき草のうきたるこひも我はする哉 000016103 とものり 059316104 夜ゐ/\にぬきてわかぬるかり衣かけておもはぬ時のまもなし 059416105 あつまちのさやの中山中/\になにしか人を思ひそめけむ 059516106 しきたへの枕のしたに海はあれと人を見るめはおひすそ有ける 059616107 年をへてきえぬおもひは有なからよるのたもとは猶こほりけり 000016108 つらゆき 059716109 わかこひはしらぬ山ちにあらなくに迷心そわひしかりける 059816110 紅のふりいてつゝなく涙にはたもとのみこそ色まさりけれ 059916111 白玉と見えし涙も年ふれはから紅にうつろひにけり」81ウ 000016201 みつね 060016202 夏虫をなにかいひ釼心から我も思ひにもえぬへら也 000016203 たゝみね 060116204 風ふけは峯にわかるゝ白雲のたえてつれなき君か心か 060216205 月影にわか身をかふる物ならはつれなき人もあはれとや見む 000016206 ふかやふ 060316207 こひしなはたか名はたゝし世中のつねなき物といひはなすとも 000016208 つらゆき 060416209 つのくにのなにはのあしのめもはるにしけきわかこひ人しるらめや 060516210 手もふれて月日へにけるしらま弓おきふしよるはいこそねられね 060616211 人しれぬ思ひのみこそわひしけれわか歎をは我のみそしる」82オ 000016301 とものり 060716302 事にいてゝいはぬ許そみなせ河したにかよひてこひしきものを 000016303 みつね 060816304 君をのみ思ひねにねし夢なれはわか心から見つるなりけり 000016305 たゝみね 060916306 いのちにもまさりておしくある物は見はてぬゆめのさむるなりけり 000016307 はるみちのつらき 061016308 梓弓ひけは本末わか方によるこそまされこひの心は 000016309 みつね 061116310 わかこひはゆくゑもしらすはてもなし逢を限と思許そ 061216311 我のみそかなしかりけるひこほしもあはてすくせる年しなけれは」82ウ 000016401 ふかやふ 061316402 今はゝやこひしなましをあひ見むとたのめし事そいのちなりける 000016403 みつね 061416404 たのめつゝあはて年ふるいつはりにこりぬ心を人はしらなむ 000016405 とものり 061516406 いのちやはなにそはつゆのあた物をあふにしかへはおしからなくに」83オ 000016501 古今和歌集巻第十三 000016502 恋哥三 000016503 やよひのついたちよりしのひに人にものら 000016504 いひてのちに雨のそほふりけるによみてつかは 000016505 しける 在原業平朝臣 061616506 おきもせすねもせてよるをあかしては春の物とてなかめくらしつ 000016507 なりひらの朝臣の家に侍ける女のもとに 000016508 よみてつかはしける 000016509 としゆきの朝臣 061716510 つれ/\のなかめにまさる涙河袖のみぬれてあふよしもなし 000016511 かの女にかはりて返しによめる」83ウ 000016601 なりひらの朝臣 061816602 あさみこそ袖はひつらめ涙河身さへ流るときかはたのまむ 000016603 題しらす よみ人しらす 061916604 よるへ浪身をこそとをくへたてつれ心は君か影となりにき 062016605 いたつらに行てはきぬる物ゆへに見まくほしさにいさなはれつゝ 062116606 あはぬ夜のふる白雪とつもりなは我さへ友にけぬへき物を 000016607 この哥はある人のいはく柿本人麿か哥也 000016608 なりひらの朝臣 062216609 秋のゝにさゝわけしあさの袖よりもあはてこしよそひちまさりける 000016610 をのゝこまち 062316611 見るめなきわか身をうらとしらねはやかれなてあまのあしたゆくゝる」84オ 000016701 源むねゆきの朝臣 062416702 あはすしてこよひあけなは春の日の長くや人をつらしと思はむ 000016703 みふのたゝみね 062516704 有あけのつれなく見えし別より暁許うき物はなし 000016705 在原元方 062616706 逢事のなきさにしよる浪なれは怨てのみそ立帰ける 000016707 よみ人しらす 062716708 かねてより風にさきたつ浪なれや逢事なきにまたき立覧 000016709 たゝみね 062816710 みちのくに有といふなるなとり河なきなとりてはくるしかりけり 000016711 みはるのありすけ」84ウ 062916801 あやなくてまたきなきなのたつた河わたらてやまむ物ならなくに 000016802 もとかた 063016803 人はいさ我はなきなのおしけれは昔も今もしらすとをいはむ 000016804 よみ人しらす 063116805 こりすまに又もなきなはたちぬへし人にくからぬ世にしすまへは 000016806 ひむかしの五条わたりに人をしりをきてまかり 000016807 かよひけりしのひなる所なりけれはかとよりしも 000016808 えいらてかきのくつれよりかよひけるをたひ 000016809 かさなりけれはあるしきゝつけてかのみちに 000016810 夜ことに人をふせてまもらすれはいきけれと 000016811 えあはてのみかへりてよみてやりける」85オ 000016901 なりひらの朝臣 063216902 ひとしれぬわかゝよひちの関守はよひ/\ことにうちもねなゝむ 000016903 題しらす つらゆき 063316904 しのふれとこひしき時はあしひきの山より月のいてゝこそくれ 000016905 よみ人しらす 063416906 こひ/\てまれにこよひそ相坂のゆふつけ鳥はなかすもあらなむ 000016907 をのゝこまち 063516908 秋の夜も名のみなりけりあふといへは事そともなくあけぬるものを 000016909 凡河内みつね 063616910 なかしとも思ひそはてぬ昔より逢人からの秋のよなれは 000016911 よみ人しらす」85ウ 063717001 しのゝめのほから/\とあけゆけはをのかきぬ/\なるそかなしき 000017002 藤原国経朝臣 063817003 曙ぬとて今はの心つくからになといひしらぬ思そふらむ 000017004 寛平御時きさいの宮の哥合のうた 000017005 としゆきの朝臣 063917006 あけぬとてかへる道にはこきたれて雨も涙もふりそほちつゝ 000017007 題しらす 寵 064017008 しのゝめの別をゝしみ我そまつ鳥よりさきに鳴はしめつる 000017009 よみ人しらす 064117010 ほとゝきす夢かうつゝかあさつゆのおきて別し暁のこゑ 064217011 玉匣あけは君かなたちぬへみ夜ふかくこしを人見けむかも」86オ 000017101 大江千里 064317102 けさはしもおき釼方もしらさりつ思いつるそきえてかなしき 000017103 人にあひてあしたによみてつかはしける 000017104 なりひらの朝臣 064417105 ねぬる夜の夢をはかなみまとろめはいやはかなにもなりまさる哉 000017106 業平朝臣の伊勢のくにゝまかりたりける時 000017107 斎宮なりける人にいとみそかにあひて又の 000017108 あしたに人やるすへなくて思ひをりける 000017109 あひたに女のもとよりをこせたりける 000017110 よみ人しらす 064517111 きみやこし我や行けむおもほえす夢かうつゝかねてかさめてか」86ウ 000017201 返し なりひらの朝臣 064617202 かきくらす心のやみに迷にき夢うつゝとは世人さためよ 000017203 題しらす よみ人しらす 064717204 むはたまのやみのうつゝはさたかなる夢にいくらもまさらさりけり 064817205 さ夜ふけてあまのと渡月影にあかすも君をあひ見つる哉 064917206 君か名もわかなもたてしなにはなるみつともいふなあひきともいはし 065017207 名とり河せゝのむもれ木あらはれは如何せむとかあひ見そめけむ 065117208 吉野河水の心はゝやくともたきのをとにはたてしとそ思 065217209 こひしくはしたにをおもへ紫のねすりの衣色にいつなゆめ 000017210 をのゝはるかせ」87オ 065317301 花すゝきほにいてゝこひは名をゝしみしたゆふひものむすほゝれつゝ 000017302 たちはなのきよきかしのひにあひしれりける 000017303 女のもとよりをこせたりける 000017304 よみ人しらす 065417305 思ふとちひとり/\かこひしなはたれによそへてふち衣きむ 000017306 返し たちはなのきよ木 065517307 なきこふる涙に袖のそほちなはぬきかへかてらよるこそはきめ 000017308 題しらす こまち 065617309 うつゝにはさもこそあらめ夢にさへ人めをよくと見るかわひしさ 065717310 限なき思ひのまゝによるもこむゆめちをさへに人はとかめし 065817311 夢ちにはあしもやすめすかよへともうつゝにひとめ見しことはあらす」87ウ 000017401 よみ人しらす 065917402 おもへとも人めつゝみのたかけれは河と見なからえこそわたらね 066017403 たきつせのはやき心をなにしかも人めつゝみのせきとゝむ覧 000017404 寛平御時きさいの宮の哥合のうた 000017405 きのとものり 066117406 紅の色にはいてしかくれぬのしたにかよひてこひはしぬとも 000017407 題しらす みつね 066217408 冬の池にすむにほ鳥のつれもなくそこにかよふと人にしらすな 066317409 さゝのはにをくはつしもの夜をさむみしみはつくとも色にいてめや 000017410 読人しらす 066417411 山しなのをとはの山のをとにたに人のしるへくわかこひめかも」88オ 000017501 この哥ある人あふみのうねめのとなむ申す 000017502 清原ふかやふ 066517503 みつしほの流ひるまをあひかたみゝるめの浦によるをこそまて 000017504 平貞文 066617505 白河のしらすともいはしそこきよみ流て世ゝにすまむと思へは 000017506 とものり 066717507 したにのみこふれはくるし玉のをのたえてみたれむ人なとかめそ 066817508 わかこひをしのひかねてはあしひきの山橘の色にいてぬへし 000017509 よみ人しらす 066917510 おほかたはわか名もみなとこきいてなむ世をうみへたに見るめすくなし 000017511 平貞文 067017512 枕より又しる人もなきこひを涙せきあへすもらしつる哉」88ウ 000017601 よみ人しらす 067117602 風ふけは浪打岸の松なれやねにあらはれてなきぬへら也 000017603 このうたはある人のいはくかきのもとの人まろかなり 067217604 池にすむ名をゝし鳥の水をあさみかくるとすれとあらはれにけり 067317605 逢事は玉の緒許名のたつは吉野の河のたきつせのこと 067417606 むらとりのたちにしわか名今更にことなしふともしるしあらめや 067517607 君によりわかなは花に春霞野にも山にもたちみちにけり 000017608 伊勢 067617609 しるといへは枕たにせてねし物をちりならぬなのそらにたつらむ」89オ 000017701 古今和歌集巻第十四 000017702 恋哥四 000017703 題しらす よみ人しらす 067717704 みちのくのあさかのぬまの花かつみかつ見る人にこひやわたらむ 067817705 あひ見すはこひしきこともなからましをとにそ人をきくへかりける 000017706 つらゆき 067917707 いその神ふるのなか道中/\に見すはこひしと思はましやは 000017708 ふちはらのたゝゆき 068017709 君てへは見まれ見すまれふしのねのめつらしけなくもゆるわかこひ 000017710 伊勢 068117711 夢にたに見ゆとは見えしあさな/\わかおもかけにはつる身なれは 000017712 よみ人しらす」89ウ 068217801 いしま行水の白浪立帰りかくこそは見めあかすもある哉 068317802 いせのあまのあさなゆふなにかつくてふ見るめに人をあくよしも哉 000017803 とものり 068417804 春霞たなひく山のさくら花見れともあかぬ君にもあるかな 000017805 ふかやふ 068517806 心をそわりなき物と思ひぬる見る物からやこひしかるへき 000017807 凡河内みつね 068617808 かれはてむのちをはしらて夏草の深くも人のおもほゆる哉 000017809 よみ人しらす 068717810 あすかゝはふちはせになる世なりとも思そめてむ人はわすれし 000017811 寛平御時きさいの宮の哥合のうた」90オ 068817901 思てふ事のはのみや秋をへて色もかはらぬ物にはある覧 000017902 題しらす 068917903 さむしろに衣かたしきこよひもや我をまつ覧うちのはしひめ 000017904 又はうちのたまひめ 069017905 君やこむ我やゆかむのいさよひにまきのいたともさゝすねにけり 000017906 そせいほうし 069117907 今こむといひし許に長月のありあけの月をまちいてつる哉 000017908 よみ人しらす 069217909 月夜よしよゝしと人につけやらはこてふにゝたりまたすしもあらす 069317910 君こすはねやへもいらしこ紫わかもとゆひにしもはをくとも 069417911 宮木のゝもとあらのこはきつゆをゝもみ風をまつこときみをこそまて」90ウ 069518001 あなこひし今も見てしか山かつのかきほにさける山となてしこ 069618002 つのくにのなにはおもはす山しろのとはにあひ見むことをのみこそ 000018003 つらゆき 069718004 しきしまやゝまとにはあらぬ唐衣ころもへすしてあふよしも哉 000018005 ふかやふ 069818006 こひしとはたかなつけゝむことならむしぬとそたゝにいふへかりける 000018007 よみ人しらす 069918008 三吉野ゝおほかはのへの藤波のなみにおもはゝわかこひめやは 070018009 かくこひむ物とは我も思にき心のうらそまさしかりける 070118010 あまのはらふみとゝろかしなる神も思ふなかをはさくるものかは」91オ 070218101 梓弓ひきのゝつゝらすゑつゐにわか思ふ人に事のしけゝむ 000018102 この哥はある人あめのみかとのあふみの 000018103 うねめにたまひけるとなむ申す 070318104 夏ひきのてひきのいとをくりかへし事しけくともたえむと思ふな 000018105 この哥は返しによみてたてまつりけるとなむ 070418106 さと人の事は夏のゝしけくともかれ行きみにあはさらめやは 000018107 藤原敏行朝臣のなりひらの朝臣の家なり 000018108 ける女をあひしりてふみつかはせりけること 000018109 はにいまゝうてくあめのふりけるをなむ 000018110 見わつらひ侍といへりけるをきゝてかの女に 000018111 かはりてよめりける」91ウ 000018201 在原業平朝臣 070518202 かす/\におもひおもはすとひかたみ身をしる雨はふりそまされる 000018203 ある女のなりひらの朝臣をところさためす 000018204 ありきすとおもひてよみてつかはしける 000018205 よみ人しらす 070618206 おほぬさのひくてあまたになりぬれはおもへとえこそたのまさりけれ 000018207 返し なりひらの朝臣 070718208 おほぬさと名にこそたてれなかれてもつゐによるせはありてふものを 000018209 題しらす よみ人しらす 070818210 すまのあまのしほやく煙風をいたみおもはぬ方にたなひきにけり 070918211 たまかつらはふ木あまたになりぬれはたえぬ心のうれしけもなし」92オ 071018301 たかさとに夜かれをしてか郭公たゝこゝにしもねたるこゑする 071118302 いて人は事のみそよき月草のうつし心はいろことにして 071218303 いつはりのなき世なりせはいか許人のことのはうれしからまし 071318304 いつはりと思物から今さらにたかまことをか我はたのまむ 000018305 素性法師 071418306 秋風に山のこのはのうつろへは人の心もいかゝとそ思 000018307 寛平御時きさいの宮の哥合のうた 000018308 とものり 071518309 蝉のこゑきけはかなしな夏衣うすくや人のならむと思へは 000018310 題しらす よみ人しらす 071618311 空蝉の世の人ことのしけゝれはわすれぬものゝかれぬへら也」92ウ 071718401 あかてこそおもはむなかはゝなれなめそをたにのちのわすれかたみに 071818402 忘なむと思心のつくからに有しよりけにまつそこひしき 071918403 わすれ南我をうらむな郭公人の秋にはあはむともせす 072018404 たえすゆくあすかの河のよとみなは心あるとや人のおもはむ 000018405 この哥ある人のいはくなかとみのあつま人かうた也 072118406 よと河のよとむと人は見るらめと流てふかき心あるものを 000018407 そせい法し 072218408 そこひなきふちやはさはく山河のあさきせにこそあたなみはたて 000018409 よみ人しらす 072318410 紅のはつ花そめの色ふかく思し心我わすれめや」93オ 000018501 河原左大臣 072418502 みちのくのしのふもちすりたれゆへにみたれむと思我ならなくに 000018503 よみ人しらす 072518504 おもふよりいかにせよとか秋風になひくあさちの色ことになる 072618505 千ゝの色にうつろふらめとしらなくに心し秋のもみちならねは 000018506 小野小町 072718507 あまのすむさとのしるへにあらなくに怨むとのみ人のいふ覧 000018508 しもつけのをむね 072818509 くもり日の影としなれる我なれはめにこそ見えね身をははなれす 000018510 つらゆき 072918511 色もなき心を人にそめしよりうつろはむとはおもほえなくに」93ウ 000018601 よみ人しらす 073018602 めつらしき人を見むとやしかもせぬわかしたひものとけわたるらむ 073118603 かけろふのそれかあらぬか春雨のふる日となれはそてそぬれぬる 073218604 ほり江こくたなゝしを舟こきかへりおなし人にやこひわたりなむ 000018605 つらゆき 073418606 いにしへに猶立帰心哉こひしきことに物わすれせて 000018607 伊勢 073318608 わたつみとあれにしとこを今便にはらはゝそてやあわとうきなむ 000018609 人をしのひにあひしりてあひかたくありけれは 000018610 その家のあたりをまかりありきけるおりに」94オ 000018701 かりのなくをきゝてよみてつかはしける 000018702 大伴くろぬし 073518703 思いてゝこひしき時はゝつかりのなきてわたると人しるらめや 000018704 右のおほいまうちきみすますなりにけ 000018705 れはかのむかしをこせたりけるふみともを 000018706 とりあつめて返すとてよみてをくりける 000018707 典侍藤原よるかの朝臣 073618708 たのめこし事のは今はかへしてむわか身ふるれはをきところなし 000018709 返し 近院の右のおほいまうちきみ 073718710 今はとてかへす事のはひろひをきてをのか物からかたみとや見む 000018711 題しらす よるかの朝臣」94ウ 073818801 たまほこの道はつねにもまとは南人をとふとも我かとおもはむ 000018802 よみ人しらす 073918803 まてといはゝねてもゆか南しひて行こまのあしおれまへのたなはし 000018804 中納言源のゝほるの朝臣のあふみのすけ 000018805 に侍ける時よみてやれりける 000018806 閑院 074018807 相坂のゆふつけ鳥にあらはこそ君かゆきゝをなく/\も見め 000018808 題しらす 伊勢 074118809 ふるさとにあらぬ物からわかために人の心のあれて見ゆらむ 000018810 寵」95オ 074218901 山かつのかきほにはへるあをつゝら人はくれともことつてもなし 000018902 さかゐのひとさね 074318903 おほそらはこひしき人のかたみかは物思ことになかめらるらむ 000018904 読人しらす 074418905 あふまてのかたみも我はなにせむに見ても心のなくさまなくに 000018906 おやのまもりける人のむすめにいとしのひに 000018907 あひてものらいひけるあひたにおやのよ 000018908 ふといひけれはいそきかへるとてもをなむ 000018909 ぬきをきていりにけるそのゝちもをかへす 000018910 とてよめる おきかせ」95ウ 074519001 あふまてのかたみとてこそとゝめけめ涙に浮もくつなりけり 000019002 題しらす よみ人しらす 074619003 かたみこそ今はあたなれこれなくはわするゝ時もあらましものを」96オ 000019101 古今和歌集巻第十五 000019102 恋哥五 000019103 五条のきさいの宮のにしのたいにすみける人 000019104 にほいにはあらてものいひわたりけるをむ月の 000019105 とをかあまりになむほかへかくれにけるあり所は 000019106 きゝけれとえ物もいはて又のとしのはるむめの 000019107 花さかりに月のおもしろかりける夜こそを 000019108 こひてかのにしのたいにいきて月のかたふく 000019109 まてあはらなるいたしきにふせりてよめる 000019110 在原業平朝臣 074719111 月やあらぬ春や昔の春ならぬわか身ひとつはもとの身にして」96ウ 000019201 題しらす 藤原なかひらの朝臣 074819202 花すゝき我こそしたに思しかほにいてゝ人にむすはれにけり 000019203 藤原かねすけの朝臣 074919204 よそにのみきかまし物をゝとは河渡となしに見なれそめけむ 000019205 凡河内みつね 075019206 わかことく我をおもはむ人も哉さてもやうきと世を心見む 000019207 もとかた 075119208 久方のあまつそらにもすまなくに人はよそにそ思へらなる 000019209 よみひとしらす 075219210 見ても又またも見まくのほしけれはなるゝを人はいとふへら也 000019211 きのとものり」97オ 075319301 雲もなくなきたるあさの我なれやいとはれてのみ世をはへぬらむ 000019302 よみ人しらす 075419303 花かたみめならふ人のあまたあれはわすられぬ覧かすならぬ身は 075519304 うきめのみおひて流る浦なれはかりにのみこそあまはよるらめ 000019305 伊勢 075619306 あひにあひて物思ころのわか袖にやとる月さへぬるゝかほなる 000019307 よみ人しらす 075719308 秋ならてをく白露はねさめするわかた枕のしつくなりけり 075819309 すまのあまのしほやき衣おさをあらみまとをにあれや君かきまさぬ 075919310 山しろのよとのわかこもかりにたにこぬ人たのむ我そはかなき」97ウ 076019401 あひ見ねはこひこそまされみなせ河なにゝふかめて思そめけむ 076119402 暁のしきのはねかきもゝはかき君かこぬ夜は我そかすかく 076219403 玉かつら今はたゆとや吹風のをとにも人のきこ江さる覧 076319404 わか袖にまたき時雨のふりぬるは君か心に秋やきぬらむ 076419405 山の井の浅き心もおもはぬに影許のみ人の見ゆらむ 076519406 忘草たねとらましを逢事のいとかくかたき物としりせは 076619407 こふれ鞆逢夜のなきは忘草夢ちにさへやおひしける覧 076719408 夢にたにあふ事かたくなりゆくは我やいをねぬ人やわするゝ 000019409 けむけい法し 076819410 もろこしも夢に見しかはちかゝりきおもはぬ中そはるけかりける」98オ 000019501 さたのゝほる 076919502 独のみなかめふるやのつまなれは人を忍の草そおひける 000019503 僧正へんせう 077019504 わかやとは道もなきまてあれにけりつれなき人を松とせしまに 077119505 今こむといひてわかれし朝より思ひくらしのねをのみそなく 000019506 よみ人しらす 077219507 こめやとは思物からひくらしのなくゆふくれはたちまたれつゝ 077319508 今しはとわひにし物をさゝかにの衣にかゝり我をたのむる 077419509 いまはこしと思物から忘つゝまたるゝ事のまたもやまぬか 077519510 月よにはこぬ人またるかきくもり雨もふらなむわひつゝもねむ 077619511 うへていにし秋田かるまて見えこねはけさはつかりのねにそなきぬる」98ウ 077719601 こぬ人を松ゆふくれの秋風はいかにふけはかわひしかる覧 077819602 ひさしくもなりにける哉すみのえの松はくるしき物にそありける 000019602a かねみのおほきみ 077919602b 住の江の松ほとひさになりぬれはあしたつのねになかぬ日はなし 000019603 仲平朝臣あひしりて侍けるをかれ方になりに 000019604 けれはちゝかやまとのかみに侍けるもとへまかる 000019605 とてよみてつかはしける 000019606 伊勢 078019607 みわの山いかにまち見む年ふともたつぬる人もあらしと思へは 000019608 題しらす 雲林院のみこ 078119609 吹まよふ野風をさむみ秋はきのうつりも行か人の心の 000019610 をのゝこまち 078219611 今はとてわか身時雨にふりぬれは事のはさへにうつろひにけり」99オ 000019701 返し 小野さたき 078319702 人を思心のこのはにあらはこそ風のまに/\ちりもみたれめ 000019703 業平朝臣きのありつねかむすめにすみけるを 000019704 うらむることありてしはしのあひたひるはきて 000019705 ゆふさりはかへりのみしけれはよみてつかはしける 078419706 あま雲のよそにも人のなりゆくかさすかにめには見ゆる物から 000019707 返し なりひらの朝臣 078519708 ゆきかへりそらにのみしてふる事はわかゐる山の風はやみなり 000019709 題しらす かけのりのおほきみ 078619710 唐衣なれは身にこそまつはれめかけてのみやはこひむと思し 000019711 とものり」99ウ 078719801 秋風は身をわけてしもふかなくに人の心のそらになるらむ 000019802 源宗于朝臣 078819803 つれもなくなりゆく人の事のはそ秋よりさきのもみちなりける 000019804 心地そこなへりけるころあひしりて侍ける人のとはて 000019805 こゝちをこたりてのちとふらへりけれはよみてつか 000019806 はしける 000019807 兵衛 078919808 しての山ふもとを見てそかへりにしつらき人よりまつこえしとて 000019809 あひしれりける人のやうやくかれかたになりけるあ 000019810 ひたにやけたるちのはにふみをさしてつかはせりける 000019811 こまちかあね 079019812 時すきてかれゆくをのゝあさちには今は思ひそたえすもえける」100オ 000019901 物おもひけるころものへまかりけるみちに野火 000019902 のもえけるを見てよめる 000019903 伊勢 079119904 冬かれのゝへとわか身を思ひせはもえても春をまたまし物を 000019905 題しらす とものり 079219906 水のあわのきえてうき身といひなから流て猶もたのまるゝ哉 000019907 よみ人しらす 079319908 みなせ河有て行水なくはこそつゐにわか身をたえぬと思はめ 000019909 みつね 079419910 吉野河よしや人こそつらからめはやくいひてし事はわすれし 000019911 よみ人しらす 079519912 世中の人の心は花そめのうつろひやすき色にそありける」100ウ 079619601 心こそうたてにくけれそめさらはうつろふ事もおしからましや 000020002 小野小町 079720003 色見えてうつろふ物は世中の人の心の花にそ有ける 000020004 よみ人しらす 079820005 我のみや世をうくひすとなきわひむ人の心の花とちりなは 000020006 そせい法し 079920007 思ふともかれ南人をいかゝせむあかすちりぬる花とこそ見め 000020008 よみ人しらす 080020009 今はとて君かゝれなはわかやとの花をはひとり見てやしのはむ 000020010 むねゆきの朝臣 080120011 忘草かれもやするとつれもなき人の心にしもはをかなむ」101オ 000020101 寛平御時御屏風に哥かゝせ給ける時よみて 000020102 かきける そせい法し 080220103 忘草なにをかたねと思しはつれなき人の心なりけり 000020104 題しらす 080320105 秋の田のいねてふ事もかけなくに何をうしとか人のかるらむ 000020106 きのつらゆき 080420107 はつかりのなきこそわたれ世中の人の心の秋しうけれは 000020108 よみ人しらす 080520109 あはれともうしとも物を思時なとか涙のいとなかるらむ 080620110 身をうしと思ふにきえぬ物なれはかくてもへぬるよにこそ有けれ 000020111 典侍藤原直子朝臣」101ウ 080720201 あまのかるもにすむゝしの我からとねをこそなかめ世をはうらみし 000020202 いなは 080820203 あひ見ぬもうきもわか身のから衣思しらすもとくるひも哉 000020204 寛平御時きさいの宮の哥合のうた 000020205 すかのゝたゝをむ 080920206 つれなきを今はこひしとおもへとも心よはくもおつる涙か 000020207 題しらす 伊勢 081020208 人しれすたえなましかはわひつゝもなき名そとたにいはましものを 000020209 よみ人しらす 081120210 それをたに思事とてわかやとを見きとないひそ人のきかくに 081220211 逢事のもはらたえぬる時にこそ人のこひしきこともしりけれ」102オ 081320301 わひはつる時さへ物の悲きはいつこをしのふ涙なるらむ 000020302 藤原おきかせ 081420303 怨てもなきてもいはむ方そなきかゝみに見ゆる影ならすして 000020304 よみ人しらす 081520305 夕されは人なきとこを打はらひなけかむためとなれるわかみか 081620306 わたつみのわか身こす浪立返りあまのすむてふうらみつる哉 081720307 あらを田をあらすきかへし/\ても人の心を見てこそやまめ 081820308 有そ海の浜のまさことたのめしは忘る事のかすにそ有ける 081920309 葦辺より雲井をさして行雁のいやとをさかるわか身かなしも 082020310 しくれつゝもみつるよりも事のはの心の秋にあふそわひしき」102ウ 082120401 秋風のふきとふきぬるむさしのはなへて草はの色かはりけり 000020402 小町 082220403 あきかせにあふたのみこそかなしけれわか身むなしくなりぬと思へは 000020404 平貞文 082320405 秋風の吹うらかへすくすのはのうらみても猶うらめしき哉 000020406 よみ人しらす 082420407 あきといへはよそにそきゝしあた人の我をふるせる名にこそ有けれ 082520408 わすらるゝ身をうちはしの中たえて人もかよはぬ年そへにける 000020409 又はこなたかなたに人もかよはす 000020410 坂上これのり 082620411 あふ事をなからのはしのなからへてこひ渡まに年そへにける」103オ 000020501 とものり 082720502 うきなからけぬるあわともなりなゝむ流てとたにたのまれぬ身は 000020503 読人しらす 082820504 流ては妹背の山のなかにおつるよしのゝ河のよしや世中」103ウ 000020601 古今和歌集巻第十六 000020602 哀傷哥 000020603 いもうとの身まかりける時よみける 000020604 小野たかむらの朝臣 082920605 なく涙雨とふらなむわたり河水まさりなはかへりくるかに 000020606 さきのおほきおほいまうちきみをしらかはの 000020607 あたりにをくりける夜よめる 000020608 そせい法し 083020609 ちの涙おちてそたきつ白河は君か世まての名にこそ有けれ 000020610 ほりかはのおほきおほいまうち君身まかりにける」104オ 000020701 時に深草の山におさめてけるのちによみける 000020702 僧都勝延 083120703 空蝉はからを見つゝもなくさめつ深草の山煙たにたて 000020704 かむつけのみねを 083220705 ふかくさのゝへの桜し心あらはことし許はすみそめにさけ 000020706 藤原敏行朝臣の身まかりにける時によみて 000020707 かの家につかはしける 000020708 きのとものり 083320709 ねても見ゆねても見えけりおほかたは空蝉の世そ夢には有ける 000020710 あひしれりける人の身まかりにけれはよめる 000020711 紀つらゆき」104ウ 083420801 夢とこそいふへかりけれ世中にうつゝある物と思ける哉 000020802 あひしれりける人のみまかりにける時によめる 000020803 みふのたゝみね 083520804 ぬるかうちに見るをのみやは夢といはむはかなき世をもうつゝとは見す 000020805 あねの身まかりにける時によめる 083620806 せをせけはふちとなりてもよとみけりわかれをとむるしからみそなき 000020807 藤原忠房かむかしあひしりて侍ける人の 000020808 身まかりにける時にとふらひにつかはすとてよめる 000020809 閑院 083720810 さきたゝぬくひのやちたひかなしきはなかるゝ水のかへりこぬ也 000020811 きのとものりか身まかりにける時よめる」105オ 000020901 つらゆき 083820902 あすしらぬわか身とおもへとくれぬまのけふは人こそかなしかりけれ 000020903 たゝみね 083920904 時しもあれ秋やは人のわかるへきあるを見るたにこひしきものを 000020905 はゝかおもひにてよめる 000020906 凡河内みつね 084020907 神な月時雨にぬるゝもみちはゝたゝわひ人のたもとなりけり 000020908 ちゝかおもひにてよめる 000020909 たゝみね 084120910 ふち衣はつるゝいとはわひ人の涙の玉のをとそなりける 000020911 おもひに侍けるとしの秋山てらへまかりけるみち 000020912 にてよめる つらゆき」105ウ 084221001 あさ露のおくての山田かりそめにうき世中を思ひぬる哉 000021002 おもひに侍ける人をとふらひにまかりてよめる 000021003 たゝみね 084321004 すみそめの君かたもとは雲なれやたえす涙の雨とのみふる 000021005 女のおやのおもひにて山てらに侍けるをある 000021006 人のとふらひつかはせりけれは返事によめる 000021007 よみ人しらす 084421008 あしひきの山へに今はすみそめの衣の袖はひる時もなし 000021009 諒闇の年池のほとりの花を見てよめる 000021010 たかむらの朝臣 084521011 水のおもにしつく花の色さやかにも君かみかけのおもほゆる哉」106オ 000021101 深草のみかとの御国忌の日よめる 000021102 文屋やすひて 084621103 草ふかき霞の谷に影かくしてるひのくれしけふにやはあらぬ 000021104 ふかくさのみかとの御時に蔵人頭にてよるひる 000021105 なれつかうまつりけるを諒闇になりにけれは 000021106 さらに世にもましらすしてひえの山にのほりて 000021107 かしらおろしてけりその又のとしみなひと 000021108 御ふくぬきてあるはかうふりたまはりなとよろ 000021109 こひけるをきゝてよめる 000021110 僧正偏昭 084721111 みな人は花の衣になりぬなりこけのたもとよかはきたにせよ」106ウ 000021201 河原のおほいまうちきみの身まかりての秋か 000021202 の家のほとりをまかりけるにもみちのいろ 000021203 またふかくもならさりけるを見てよみていれ 000021204 たりける 000021205 近院右のおほいまうちきみ 084821206 うちつけにさひしくもあるかもみちはもぬしなきやとは色なかりけり 000021207 藤原たかつねの朝臣の身まかりての又のとしの 000021208 夏ほとゝきすのなきけるをきゝてよめる 000021209 つらゆき 084921210 郭公けさなくこゑにおとろけは君を別し時にそありける 000021211 さくらをうへてありけるにやうやく花さきぬへき」107オ 000021301 時にかのうへける人身まかりにけれはその花を見 000021302 てよめる きのもちゆき 085021303 花よりも人こそあたになりにけれいつれをさきにこひむとか見し 000021304 あるし身まかりにける人の家の梅花を見て 000021305 よめる つらゆき 085121306 色もかも昔のこさにゝほへともうへけむ人の影そこひしき 000021307 河原の左のおほいまうちきみの身まかりてのゝち 000021308 かの家にまかりてありけるにしほかもといふ所の 000021309 さまをつくれりけるを見てよめる 085221310 君まさて煙たえにしゝほかまの浦さひしくも見え渡かな 000021311 藤原のとしもとの朝臣の右近中将にてすみ侍ける」107ウ 000021401 さうしの身まかりてのち人もすますなりに 000021402 けるを秋の夜ふけてものよりまうてきける 000021403 ついてに見いれけれはもとありしせんさいも 000021404 いとしけくあれたりけるを見てはやくそこ 000021405 に侍けれはむかしを思やりてよみける 000021406 みはるのありすけ 085321407 きみかうへしひとむらすゝき虫のねのしけきのへともなりにける哉 000021408 これたかのみこのちゝの侍りけむ時によめりけむ 000021409 うたともとこひけれはかきてをくりけるおくに 000021410 よみてかけりける 000021411 とものり 085421412 ことならは事のはさへもきえなゝむ見れは涙のたきまさりけり」108オ 000021501 題しらす よみ人しらす 085521502 なき人のやとにかよはゝ郭公かけてねにのみなくとつけなむ 085621503 誰見よと花さける覧白雲のたつのとはやくなりにし物を 000021504 式部卿のみこ閑院の五のみこにすみわたりけるを 000021505 いくはくもあらて女みこの身まかりにける時に 000021506 かのみこすみける帳のかたひらのひもにふみを 000021507 ゆひつけたりけるをとりて見れはむかしのてにて 000021508 このうたをなむかきつけたりける 085721509 かす/\に我をわすれぬ物ならは山の霞をあはれとは見よ 000021510 おとこの人のくにゝまかれりけるまに女にはかに 000021511 やまひをしていとよはくなりにける時よみをきて」108ウ 000021601 身まかりにける 000021602 よみ人しらす 085821603 こゑをたにきかてわかるゝたまよりもなきとこにねむ君そかなしき 000021604 やまひにわつらひ侍ける秋心地のたのもしけ 000021605 なくおほえけれはよみて人のもとにつかはし 000021606 ける 大江千里 085921607 もみちはを風にまかせて見るよりもはかなき物はいのちなりけり 000021608 身まかりなむとてよめる 000021609 藤原これもと 086021610 つゆをなとあたなる物と思けむわか身も草にをかぬ許を 000021611 やまひしてよはくなりにける時よめる 000021612 なりひらの朝臣」109オ 086121701 つゐにゆくみちとはかねてきゝしかときのふけふとはおもはさりしを 000021702 かひのくにゝあひしりて侍ける人とふらはむ 000021703 とてまかりけるをみち中にてにはかにやまひ 000021704 をしていま/\となりにけれはよみて京に 000021705 もてまかりて母に見せよといひて人につけ 000021706 侍けるうた 000021707 在原しけはる 086221708 かりそめのゆきかひちとそ思こし今はかきりのかとてなりけり」109ウ 000021801 古今和歌集巻第十七 000021802 雑哥上 000021803 題しらす よみ人しらす 086321804 わかうへに露そをくなるあまの河とわたる舟のかいのしつくか 086421805 思ふとちまとゐせる夜は唐錦たゝまくおしき物にそありける 086521806 うれしきをなにゝつゝまむ唐衣たもとゆたかにたてといはましを 086621807 限なき君かためにとおる花はときしもわかぬ物にそ有ける 000021808 ある人のいはくこの哥はさきのおほいまうち君の也 086721809 紫のひともとゆへにむさしのゝ草はみなからあはれとそ見る 000021810 めのおとうとをもて侍ける人にうへのきぬをゝくるとて」110オ 000021901 よみてやりける なりひらの朝臣 086821902 紫の色こき時はめもはるに野なる草木そわかれさりける 000021903 大納言ふちはらのくにつねの朝臣の宰相より中 000021904 納言になりける時そめぬうへのきぬあやをゝく 000021905 るとてよめる 近院右のおほいまうちきみ 086921906 色なしと人や見る覧昔よりふかき心にそめてしものを 000021907 いそのかみのなむまつか宮つかへもせていその 000021908 神といふ所にこもり侍けるをにはかにかうふり 000021909 たまはれりけれはよろこひいひつかはすとてよみて 000021910 つかはしける ふるのいまみち」110ウ 087022001 日のひかりやふしわかねはいその神ふりにしさとに花もさきけり 000022002 二条のきさきのまた東宮のみやすんところと 000022003 申ける時におほはらのにまうてたまひける日 000022004 よめる なりひらの朝臣 087122005 おほはらやをしほの山もけふこそは神世の事も思いつらめ 000022006 五節のまひゝめを見てよめる 000022007 よしみねのむねさた 087222008 あまつかせ雲のかよひち吹とちよをとめのすかたしはしとゝめむ 000022009 五せちのあしたにかむさしのたまのおちたり 000022010 けるを見てたかならむとゝふらひてよめる 000022011 河原の左のおほいまうちきみ」111オ 087322101 ぬしやたれとへとしら玉いはなくにさらはなへてやあはれとおもはむ 000022102 寛平御時うへのさふらひに侍けるをのことも 000022103 かめをもたせてきさいの宮の御方におほみ 000022104 きのおろしときこえにたてまつりたりけるを 000022105 くら人ともわらひてかめをおまへにもていてゝ 000022106 ともかくもいはすなりにけれはつかひのかへりき 000022107 てさなむありつるといひけれはくら人のなかに 000022108 をくりける としゆきの朝臣 087422109 玉たれのこかめやいつらこよろきのいその浪わけおきにいてにけり 000022110 女ともの見てわらひけれはよめる 000022111 けむけいほうし」111ウ 087522201 かたちこそみ山かくれのくち木なれ心は花になさはなりなむ 000022202 方たかへに人の家にまかれりける時にあるしの 000022203 きぬをきせたりけるをあしたにかへすとて 000022204 よみける きのとものり 087622205 蝉のはのよるの衣はうすけれとうつりかこくもにほひぬる哉 000022206 題しらす よみ人しらす 087722207 をそくいつる月にもある哉葦引の山のあなたもおしむへら也 087822208 わか心なくさめかねつさらしなやをはすて山にてる月を見て 000022209 なりひらの朝臣 087922210 おほかたは月をもめてしこれそこのつもれは人のおいとなるもの」112オ 000022301 月おもしろしとて凡河内躬恒かまうてきたり 000022302 けるによめる きのつらゆき 088022303 かつ見れはうとくもある哉月影のいたらぬさともあらしと思へは 000022304 池に月の見えけるをよめる 088122305 ふたつなき物と思しをみなそこに山のはならていつる月かけ 000022306 題しらす よみ人しらす 088222307 あまの河雲のみおにてはやけれはひかりとゝめす月そなかるゝ 088322308 あかすして月のかくるゝ山本はあなたおもてそこひしかりける 000022309 これたかのみこのかりしけるともにまかりてやとり 000022310 にかへりて夜ひとよさけをのみ物かたりをしける 000022311 に十一日の月もかくれなむとしけるをりにみこ」112ウ 000022401 ゑひてうちへいりなむとしけれはよみ侍ける 000022402 なりひらの朝臣 088422403 あかなくにまたきも月のかくるゝか山のはにけていれすもあらなむ 000022404 田むらのみかとの御時に斎院に侍けるあきら 000022405 けいこのみこをはゝあやまちありといひて斎 000022406 院をかへられむとしけるをそのことやみに 000022407 けれはよめる 000022408 あま敬信 088522409 おほそらをてりゆく月しきよけれは雲かくせともひかりけなくに 000022410 題しらす よみ人しらす 088622411 いその神ふるからをのゝもとかしは本の心はわすられなくに」113オ 088722501 いにしへの野中のし水ぬるけれと本の心をしる人そくむ 088822502 いにしへのしつのをたまきいやしきもよきもさかりは有し物也 088922503 今こそあれ我も昔はおとこ山さかゆく時も有こしものを 089022504 世中にふりぬる物はつのくにのなからのはしと我となりけり 089122505 さゝのはにふりつむ雪のうれをゝもみ本くたちゆくわかさかりはも 089222506 おほあらきのもりのした草おいぬれは駒もすさめすかる人もなし 000022507 又はさくらあさのをふのしたくさおいぬれは 089322508 かそふれはとまらぬ物を年といひてことしはいたくおいそしにける 089422509 をしてるやなにはの水にやくしほのからくも我はおいにける哉 000022510 又はおほとものみつのはまへに」113ウ 089522601 おいらくのこむとしりせはかとさしてなしとこたへてあはさらましを 000022602 このみつの哥は昔ありけるみたりのおきなのよめるとなむ 089622603 さかさまに年もゆかなむとりもあへすゝくるよはひやともにかへると 089722604 とりとむる物にしあらねは年月をあはれあなうとすくしつる哉 089822605 とゝめあへすむへもとしとはいはれけりしかもつれなくすくるよはひか 089922606 鏡山いさ立よりて見てゆかむ年へぬる身はおいやしぬると 000022607 この哥はある人のいはくおほとものくろぬしか也 000022608 業平朝臣のはゝのみこ長岡にすみ侍ける時に 000022609 なりひら宮つかへすとて時/\もえまかりとふらはす」114オ 000022701 侍けれはしはす許にはゝのみこのもとより 000022702 とみの事とてふみをもてまうてきたり 000022703 あけて見れはことはゝなくてありけるうた 090022704 老ぬれはさらぬ別もありといへはいよ/\見まくほしき君哉 000022705 返し なりひらの朝臣 090122706 世中にさらぬ別のなくも哉千世もとなけく人のこのため 000022707 寛平御時きさいの宮の哥合のうた 000022708 在原むねやな 090222709 白雪のやへふりしけるかへる山かへる/\もおいにける哉 000022710 おなし御時のうへのさふらひにてをのこともに 000022711 おほみきたまひておほみあそひありけるつ」114ウ 000022801 いてにつかうまつれる 000022802 としゆきの朝臣 090322803 おいぬとてなとかわか身をせめきけむおいすはけふにあはましものか 000022804 題しらす よみ人しらす 090422805 ちはやふる宇治の橋守なれをしそあはれとは思年のへぬれは 090522806 我見てもひさしく成ぬ住の江の岸の姫松いくよへぬ覧 090622807 住吉の岸のひめ松人ならはいく世かへしとゝはまし物を 090722808 梓弓いそへのこ松たか世にかよろつ世かねてたねをまきけむ 000022809 この哥はある人のいはく柿本人麿か也 090822810 かくしつゝ世をやつくさむ高砂のおのへにたてる松ならなくに 000022811 藤原おきかせ」115オ 090922901 誰をかもしる人にせむ高砂の松も昔の友ならなくに 000022902 よみ人しらす 091022903 わたつ海のおきつしほあひにうかふあわのきえぬ物からよる方もなし 091122904 わたつ海のかさしにさせる白砂の浪もてゆへる淡路しま山 091222905 わたの原よせくる浪のしは/\も見まくのほしき玉津島かも 091322906 なにはかたしほみちくらしあま衣たみのゝ島にたつなき渡 000022907 貫之かいつみのくにゝ侍ける時にやまとよりこえ 000022908 まうてきてよみてつかはしける 000022909 藤原たゝふさ 091422910 君を思ひおきつのはまになくたつの尋くれはそありとたにきく 000022911 返し つらゆき」115ウ 091523001 おきつ浪たかしのはまの浜松の名にこそ君をまちわたりつれ 000023002 なにはにまかれりける時よめる 091623003 なにはかたおふるたまもをかりそめのあまとそ我はなりぬへらなる 000023004 あひしれりける人の住吉にまうてけるに 000023005 よみてつかはしける 000023006 みふのたゝみね 091723007 すみよしとあまはつくともなかゐすな人忘草おふといふなり 000023008 なにはへまかりける時たみのゝしまにて 000023009 雨にあひてよめる 000023010 つらゆき 091823011 あめによりたみのゝ島をけふゆけと名にはかくれぬ物にそ有ける」116オ 000023101 法皇にし河におはしましたりける日つる 000023102 すにたてりといふことを題にてよませたまひける 091923103 あしたつのたてる河辺を吹風によせてかへらぬ浪かとそ見る 000023104 中務のみこの家の池に舟をつくりておろし 000023105 はしめてあそひける日法皇御覧しにお 000023106 はしましたりけりゆふさりつかたかへりおは 000023107 しまさむとしけるおりによみてたてまつりける 000023108 伊勢 092023109 水のうへにうかへる舟の君ならはこゝそとまりといはまし物を 000023110 からことゝいふ所にてよめる 000023111 真せいほうし」116ウ 092123201 宮こまてひゝきかよへるからことは浪のをすけて風そひきける 000023202 ぬのひきのたきにてよめる 000023203 在原行平朝臣 092223204 こきちらす瀧の白玉ひろひをきて世のうき時の涙にそかる 000023205 布引の瀧の本にて人/\あつまりて哥よみ 000023206 ける時によめる 000023207 なりひらの朝臣 092323208 ぬきみたる人こそあるらし白玉のまなくもちるか袖のせはきに 000023209 よしのゝたきを見てよめる 000023210 承均法師 092423211 たかためにひきてさらせるぬのなれや世をへて見れとゝる人もなき」117オ 000023301 題しらす 神たい法し 092523302 きよたきのせゝのしらいとくりためて山わけ衣をりてきましを 000023303 龍門にまうてゝたきのもとにてよめる 000023304 伊勢 092623305 たちぬはぬきぬきし人もなき物をなに山姫のぬのさらすらむ 000023306 朱雀院のみかとぬのひきのたき御覧せむとて 000023307 ふん月のなぬかの日おはしましてありける 000023308 時にさふらふ人/\に哥よませたまひけるによめる 000023309 たちはなのなかもり 092723310 ぬしなくてさらせるぬのをたなはたにわか心とやけふはかさまし」117ウ 000023401 ひえの山なるをとはのたきを見てよめる 000023402 たゝみね 092823402a おちたきつたきのみなかみとしつもりおいにけらしなくろきすちなし 000023402b おなしたきをよめる みつね 092923403 風ふけと所もさらぬ白雲はよをへておつる水にそ有ける 000023404 田むらの御時に女房のさふらひにて御屏風 000023405 のゑ御覧しけるにたきおちたりける所 000023406 おもしろしこれを題にてうたよめと 000023407 さふらふ人におほせられけれはよめる 000023408 三条の町 093023409 おもひせく心の内のたきなれやおつとは見れとをとのきこえぬ 000023410 屏風のゑなる花をよめる」118オ 000023501 つらゆき 093123502 さきそめし時よりのちはうちはへて世は春なれや色のつねなる 000023503 屏風のゑによみあはせてかきける 000023504 坂上これのり 093223505 かりてほす山田のいねのこきたれてなきこそわたれ秋のうけれは」118ウ 000023601 古今和歌集巻第十八 000023602 雑哥下 000023603 題しらす 読人しらす 093323604 世中はなにかつねなるあすかゝはきのふのふちそけふはせになる 093423605 いく世しもあらしわか身をなそもかくあまのかるもに思みたるゝ 093523606 雁のくる峯の朝霧はれすのみ思ひつきせぬ世中のうさ 000023607 小野たかむらの朝臣 093623608 しかりとてそむかれなくに事しあれはまつなけかれぬあなう世中 000023609 かひのかみに侍ける時京へまかりのほりける 000023610 人につかはしける 000023611 をのゝさたき」119オ 093723701 宮こ人いかゝとゝはゝ山たかみはれぬくもゐにわふとこたへよ 000023702 文屋のやすひてみかはのそうになりてあかた 000023703 見にはえいてたゝしやといひやれりける返事 000023704 によめる 小野小町 093823705 わひぬれは身をうき草のねをたえてさそふ水あらはいなむとそ思 000023706 題しらす 093923707 あはれてふ事こそうたて世中を思はなれぬほたしなりけれ 000023708 よみ人しらす 094023709 あはれてふ事のはことにをくつゆは昔をこふる涙なりけり 094123710 世中のうきもつらきもつけなくにまつしる物はなみたなりけり」119ウ 094223801 世中は夢かうつゝかうつゝとも夢ともしらす有てなけれは 094323802 よのなかにいつらわか身のありてなしあはれとやいはむあなうとやいはむ 094423803 山里は物の惨慄き事こそあれ世のうきよりはすみよかりけり 000023804 これたかのみこ 094523805 白雲のたえすたなひく岑にたにすめはすみぬる世にこそ有けれ 000023806 ふるのいまみち 094623807 しりにけむきゝてもいとへ世中は浪のさわきに風そしくめる 000023808 そせい 094723809 いつこにか世をはいとはむ心こそのにも山にもまとふへらなれ 000023810 よみ人しらす 094823811 世中は昔よりやはうかりけむわか身ひとつのためになれるか」120オ 094923901 世中をいとふ山への草木とやあなうの花の色にいてにけむ 095023902 みよしのゝ山のあなたにやとも哉世のうき時のかくれかにせむ 095123903 世にふれはうさこそまされみよしのゝいはのかけみちふみならしてむ 095223904 いかな覧巌の中にすまはかは世のうき事のきこえこさらむ 095323905 葦引の山のまに/\かくれ南うき世中はあるかひもなし 095423906 世中のうけくにあきぬ奥山のこのはにふれる雪やけなまし 000023907 おなしもしなきうた 000023908 ものゝへのよしな 095523909 よのうきめ見えぬ山ちへいらむにはおもふ人こそほたしなりけれ」120ウ 000024001 山のほうしのもとへつかはしける 000024002 凡河内みつね 095624003 世をすてゝ山にいる人山にても猶うき時はいつちゆく覧 000024004 物思ける時いときなきこを見てよめる 095724005 今更になにおひいつ覧竹のこのうきふしゝけき世とはしらすや 000024006 題しらす よみ人しらす 095824007 世にふれは事のはしけきくれ竹のうきふしことに鴬そなく 095924008 木にもあらす草にもあらぬ竹のよのはしにわか身はなりぬへら也 000024009 ある人のいはく高津のみこの哥也 096024009a わか身からうき世中となつけつゝ人のためさへかなしかるらむ 000024010 おきのくにゝなかされて侍ける時によめる 000024011 たかむらの朝臣」121オ 096124101 思きやひなのわかれにおとろへてあまのなはたきいさりせむとは 000024102 田むらの御時に事にあたりてつのくにの 000024103 すまといふ所にこもり侍けるに宮のうちに 000024104 侍ける人につかはしける 000024105 在原行平朝臣 096224106 わくらはにとふ人あらはすまの浦にもしほたれつゝわふとこたへよ 000024107 左近将監とけて侍ける時に女のとふらひに 000024108 をこせたりける返事によみてつかはしける 000024109 をのゝはるかせ 096324110 あまひこのをとつれしとそ今は思我か人かと身をたとるよに 000024111 つかさとけて侍ける時よめる 000024112 平さたふん」121ウ 096424201 うき世にはかとさせりとも見えなくになとかわか身のいてかてにする 096524202 有はてぬいのちまつまのほと許うきことしけくおもはすも哉 000024203 みこの宮のたちはきに侍けるを宮つかへ 000024204 つかうまつらすとてとけて侍ける時によめる 000024205 みやちのきよき 096624206 つくはねのこの本ことに立そよる春のみ山のかけをこひつゝ 000024207 時なりける人のにはかに時なくなりてなけくを 000024208 見てみつからのなけきもなくよろこひも 000024209 なきことを思てよめる 000024210 清原深養父 096724211 ひかりなき谷には春もよそなれはさきてとくちる物思ひもなし」122オ 000024301 かつらに侍ける時に七条の中宮のとはせ給へり 000024302 ける御返事にたてまつれりける 000024303 伊勢 096824304 久方の中におひたるさとなれはひかりをのみそたのむへらなる 000024305 紀のとしさたか阿波のすけにまかりける時に 000024306 むまのはなむけせむとてけふといひをくれ 000024307 りける時にこゝかしこにまかりありきて夜 000024308 ふくるまて見えさりけれはつかはしける 000024309 なりひらの朝臣 096924310 今そしるくるしき物と人またむさとをはかれすとふへかりけり 000024311 惟喬のみこのもとにまかりかよひけるを」122ウ 000024401 かしらおろしてをのといふ所に侍けるに 000024402 正月にとふらはむとてまかりたりけるにひえ 000024403 の山のふもとなりけれは雪いとふかゝり 000024404 けりしひてかのむろにまかりいたりておかみ 000024405 けるにつれ/\としていと物かなしくてかへり 000024406 まうてきてよみてをくりける 097024407 わすれては夢かとそ思おもひきや雪ふみわけて君を見むとは 000024408 深草のさとにすみ侍て京へまうてくとて 000024409 そこなりける人によみてをくりける 097124410 年をへてすみこしさとをいてゝいなはいとゝ深草のとやなりなむ」123オ 000024501 返し よみ人しらす 097224502 野とならはうつらとなきて年はへむかりにたにやは君かこさらむ 000024503 題しらす 097324504 我を君なにはの浦に有しかはうきめをみつのあまとなりにき 000024505 この哥はある人むかしおとこありけるをうな 000024506 のおとことはすなりにけれはなにはなる 000024507 みつのてらにまかりてあまになりてよみて 000024508 おとこにつかはせりけるとなむいへる 000024509 返し 097424510 なにはかたうらむへきまもおもほえすいつこをみつのあまとかはなる 097524511 今更にとふへき人もおもほえすやへむくらしてかとさせりてへ 000024512 ともたちのひさしうまうてこさりけるもとに」123ウ 000024601 よみてつかはしける 000024602 みつね 097624603 水のおもにおふるさ月のうき草のうき事あれやねをたえてこぬ 000024604 人をとはてひさしうありけるおりにあひ 000024605 うらみけれはよめる 097724606 身をすてゝゆきやしにけむ思ふより外なる物は心なりけり 000024607 むねをかのおほよりかこしよりまうてきたりける 000024608 時に雪のふりけるを見てをのかおもひは 000024609 このゆきのことくなむつもれるといひけるおり 000024610 によめる 097824611 君か思ひ雪とつもらはたのまれす春よりのちはあらしとおもへは」124オ 000024701 返し 宗岳大頼 097924702 君をのみ思ひこしちのしら山はいつかは雪のきゆる時ある 000024703 こしなりける人につかはしける 000024704 きのつらゆき 098024705 思やるこしの白山しらねともひと夜も夢にこえぬよそなき 000024706 題しらす よみ人しらす 098124707 いさこゝにわか世はへなむ菅原や伏見の里のあれまくもおし 098224708 わかいほはみわの山もとこひしくはとふらひきませすきたてるかと 000024709 きせんほうし 098324710 わかいほは宮このたつみしかそすむ世をうち山と人はいふ也 000024711 よみ人しらす」124ウ 098424801 あれにけりあはれいくよのやとなれやすみ釼人のをとつれもせぬ 000024802 ならへまかりける時にあれたる家に女の 000024803 琴ひきけるをきゝてよみていれたりける 000024804 よしみねのむねさた 098524805 わひゝとのすむへきやとゝ見るなへに歎くはゝることのねそする 000024806 はつせにまうつる道にならの京にやとれ 000024807 りける時よめる 000024808 二条 098624809 人ふるすさとをいとひてこしかともならの宮こもうきなゝりけり 000024810 題しらす よみ人しらす 098724811 世中はいつれかさしてわかならむ行とまるをそやとゝさたむる」125オ 098824901 相坂の嵐のかせはさむけれとゆくゑしらねはわひつゝそぬる 098924902 風のうへにありかさためぬちりの身はゆくゑもしらすなりぬへら也 000024903 家をうりてよめる 000024904 伊勢 099024905 あすかゝはふちにもあらぬわかやともせにかはりゆく物にそ有ける 000024906 つくしに侍ける時にまかりかよひつゝこうちける 000024907 人のもとに京にかへりまうてきてつかはしける 000024908 きのとものり 099124909 ふるさとは見しこともあらすおのゝえのくちし所そこひしかりける 000024910 女ともたちと物かたりしてわかれてのちにつかはし 000024911 ける みちのく 099224912 あかさりし袖のなかにやいりにけむわかたましひのなき心ちする」125ウ 000025001 寛平御時にもろこしのはう官にめされて 000025002 侍ける時に東宮のさふらひにてをのことも 000025003 さけたうへけるついてによみ侍ける 000025004 ふちはらのたゝふさ 099325005 なよ竹のよなかきうへにはつしものおきゐて物を思ころ哉 000025006 題しらす よみ人しらす 099425007 風ふけはおきつ白浪たつた山よはにや君かひとりこゆ覧 000025008 ある人この哥はむかしやまとのくになり 000025009 ける人のむすめにある人すみわたり 000025010 けりこの女おやもなくなりて家もわるく」126オ 000025101 なりゆくあひたにこのおとこかうちのくにゝ 000025102 人をあひしりてかよひつゝかれやうにのみ 000025103 なりゆきけりさりけれともつらけなるけしき 000025104 も見えてかうちへいくことにおとこの心のこと 000025105 くにしつゝいたしやりけれはあやしと思ひて 000025106 もしなきまにこと心もやあるとうたかひて 000025107 月のおもしろかりける夜かうちへいくまね 000025108 にてせんさいのなかにかくれて見けれは 000025109 夜ふくるまてことをかきならしつゝうち 000025110 なけきてこの哥をよみてねにけれはこれをきゝて」126ウ 000025201 それより又ほかへもまからすなりにけりと 000025202 なむいひつたへたる 099525203 たかみそきゆふつけ鳥か唐衣たつたの山におりはへてなく 099625204 わすられむ時しのへとそ浜千鳥ゆくゑもしらぬあとをとゝむる 000025205 貞観御時万葉集はいつはかりつくれるそ 000025206 とゝはせ給けれはよみてたてまつりける 000025207 文屋ありすゑ 099725208 神な月時雨ふりをけるならのはのなにおふ宮のふることそこれ 000025209 寛平御時哥たてまつりけるついてにたてまつりける 000025210 大江千里」127オ 099825301 あしたつのひとりをくれてなくこゑは雲のうへまてきこえつかなむ 000025302 ふちはらのかちをむ 099925303 ひとしれす思ふ心は春霞たちいてゝきみかめにも見えなむ 000025304 哥めしける時にたてまつるとてよみて 000025305 おくにかきつけてたてまつりける 000025306 伊勢 100025307 山河のをとにのみきくもゝしきを身をはやなから見るよしも哉」127ウ 000025401 古今和歌集巻第十九 000025402 雑躰 000025403 短哥 000025404 題しらす よみ人しらす 100125405 あふことのまれなるいろにおもひそめわか身はつねに 100125406 あまくものはるゝ時なくふしのねのもえつゝとはに 100125407 おもへともあふことかたしなにしかも人をうらみむ 100125408 わたつみのおきをふかめておもひてしおもひはいまは 100125409 いたつらになりぬへらなりゆく水のたゆる時なく」128オ 100125501 かくなわにおもひみたれてふるゆきのけなはけぬへく 100125502 おもへともえふの身なれはなをやますおもひはふかし 100125503 あしひきの山した水のこかくれてたきつ心を 100125504 たれにかもあひかたらはむいろにいては人しりぬへみ 100125505 すみそめのゆふへになれはひとりゐてあはれ/\と 100125506 なけきあまりせむすへなみににはにいてゝたちやすらへは 100125507 しろたへの衣のそてにをくつゆのけなはけぬへく 100125508 おもへともなをなけかれぬはるかすみよそにも人に 100125509 あはむとおもへは」128ウ 000025601 ふるうたゝてまつりし時のもくろくのそのなかうた 000025602 つらゆき 100225603 ちはやふる神のみよゝりくれ竹の世ゝにもたえす 100225604 あまひこのをとはの山のはるかすみ思ひみたれて 100225605 さみたれのそらもとゝろにさよふけて山ほとゝきす 100225606 なくことにたれもねさめてからにしきたつたの山の 100225607 もみちはを見てのみしのふ神な月しくれ/\て 100225608 冬の夜の庭もはたれにふるゆきの猶きえかへり 100225609 年ことに時につけつゝあはれてふことをいひつゝ」129オ 100225701 きみをのみちよにといはふ世の人のおもひするかの 100225702 ふしのねのもゆる思ひもあかすしてわかるゝなみた 100225703 藤衣をれる心もやちくさのことのはことに 100225704 すへらきのおほせかしこみまき/\の中につくすと 100225705 いせの海のうらのしほかひひろひあつめとれりとすれと 100225706 たまのをのみしかき心思あへす猶あらたまの 100225707 年をへて大宮にのみひさかたのひるよるわかす 100225708 つかふとてかへりみもせぬわかやとのしのふくさおふる 100225709 いたまあらみふる春さめのもりやしぬらむ129ウ 000025801 ふるうたにくはへてたてまつれるなかうた 000025802 壬生忠岑 100325803 くれ竹の世ゝのふることなかりせはいかほのぬまの 100325804 いかにして思ふ心をのはへましあはれむかしへ 100325805 ありきてふ人まろこそはうれしけれ身はしもなから 100325806 ことのはをあまつそらまてきこ比あけすゑのよまての 100325807 あとゝなし今もおほせのくたれるはちりにつけとや 100325808 ちりの身につもれる事をとはるらむこれをおもへは 100325809 けたものゝくもにほえけむ心地してちゝのなさけも」130オ 100325901 おもほえすひとつ心そほこらしきかくはあれとも 100325902 てるひかりちかきまもりの身なりしをたれかは秋の 100325903 くる方にあさむきいてゝみかきよりとのへもる身の 100325904 みかきもりおさ/\しくもおもほえすこゝのかさねの 100325905 なかにてはあらしの風もきかさりき今はの山し 100325906 ちかけれは春は霞にたなひかれ夏はうつせみ 100325907 なきくらし秋は時雨に袖をかし冬はしもにそ 100325908 せめらるゝかゝるわひしき身なからにつもれるとしを 100325909 しるせれはいつゝのむつになりにけりこれにそはれる 100325910 わたくしのおいのかすさへやよけれは身はいやしくて」130ウ 100326001 年たかきことのくるしさかくしつゝなからのはしの 100326002 なからへてなにはのうらにたつ浪の浪のしわにや 100326003 おほゝれむさすかにいのちおしけれはこしのくになる 100326004 しら山のかしらはしろくなりぬともをとはのたきの 100326005 をとにきくおいすしなすのくすりかも君かやちよを 100326006 わかえつゝ見む 100426007 君か世にあふさか山のいはし水こかくれたりと思ひける哉 000026008 冬のなかうた 凡河内躬恒 100526009 ちはやふる神な月とやけさよりはくもりもあへす」131オ 100526101 はつ時雨紅葉とゝもにふるさとのよしのゝ山の 100526102 山あらしもさむく日ことになりゆけはたまのをとけて 100526103 こきちらしあられみたれてしも氷いやかたまれる 100526104 にはのおもにむら/\見ゆる冬草のうへにふりしく 100526105 白雪のつもり/\てあらたまのとしをあまたも 100526106 すくしつる哉 000026107 七条のきさきうせたまひにけるのちによみける 000026108 伊勢 100626109 おきつなみあれのみまさる宮のうちはとしへてすみし 100626110 いせのあまも舟なかしたる心地してよらむ方なく」131ウ 100626201 かなしきに涙の色のくれなゐは我らかなかの 100626202 時雨にて秋のもみちと人/\はをのかちり/\ 100626203 わかれなはたのむかけなくなりはてゝとまる物とは 100626204 花すゝききみなき庭にむれたちてそらをまねかは 100626205 はつかりのなき渡りつゝよそにこそ見め 000026206 旋頭哥 000026207 題しらす よみ人しらす 100726208 うちわたすをち方人に物まうすわれそのそこに 100726209 しろくさけるはなにの花そも」132オ 000026301 返し 100826302 春されはのへにまつさく見れとあかぬ花まひなしに 100826303 たゝなのるへき花のなゝれや 000026304 題しらす 100926305 はつせ河ふるかはのへにふたもとあるすき年をへて 100926306 又もあひ見むふたもとあるすき 000026307 つらゆき 101026308 きみかさすみかさの山のもみちはのいろ神な月 101026309 しくれのあめのそめるなりけり」132ウ 000026401 誹諧哥 000026402 題しらす よみ人しらす 101126403 梅花見にこそきつれ鴬の人く/\といとひしもをる 000026404 素性法師 101226405 山吹の花色衣ぬしやたれとへとこたへすくちなしにして 000026406 藤原敏行朝臣 101326407 いくはくの田をつくれはか郭公してのたをさをあさな/\よふ 000026408 七月六日たなはたの心をよみける 000026409 藤原かねすけの朝臣 101426410 いつしかとまたく心をはきにあけてあまのかはらをけふやわたらむ」133オ 000026501 題しらす 凡河内みつね 101526502 むつこともまたつきなくにあけぬめりいつらは秋のなかしてふよは 000026503 僧正へんせう 101626504 秋のゝになまめきたてるをみなへしあなかしかまし花もひと時 000026505 よみ人しらす 101726506 あきくれはのへにたはるゝ女郎花いつれの人かつまて見るへき 101826507 秋きりのはれてくもれはをみなへし花のすかたそ見えかくれする 101926508 花と見ておらむとすれはをみなへしうたゝあるさまの名にこそ有けれ 000026509 寛平御時きさいの宮の哥合のうた 000026510 在原むねやな 102026511 秋風にほころひぬらしふちはかまつゝりさせてふ蟋蟀なく」133ウ 000026601 あすはるたゝむとしける日となりの家のかた 000026602 より風の雪をふきこしけるを見て 000026603 そのとなりへよみてつかはしける 000026604 清原ふかやふ 102126665 冬なから春の隣のちかけれはなかゝきよりそ花はちりける 000026606 題しらす よみ人しらす 102226607 いその神ふりにしこひの神さひてたゝるに我はいそねかねつる 102326608 枕よりあとよりこひのせめくれはせむ方なみそとこなかにをる 102426609 こひしきか方も方こそ有ときけたてれをれともなき心ち哉 102526610 ありぬやと心見かてらあひ見ねはたはふれにくきまてそこひしき」134オ 102626701 みゝなしの山のくちなしえてし哉思ひの色のしたそめにせむ 102726702 葦引の山田のそほつをのれさへ我おほしてふうれはしきこと 000026703 きのめのと 102826704 ふしのねのならぬおもひにもえはもえ神たにけたぬむなしけふりを 000026705 きのありとも 102926706 あひ見まく星はかすなく有なから人に月なみ迷こそすれ 000026707 小野小町 103026708 人にあはむ月のなきには思ひをきてむねはしり火に心やけをり 000026709 寛平御時きさいの宮の哥合のうた 000026710 藤原おきかせ 103126711 春霞たなひくのへのわかなにもなり見てし哉人もつむやと」134ウ 000026801 題しらす よみ人しらす 103226802 おもへとも猶うとまれぬ春霞かゝらぬ山もあらしとおもへは 000026803 平貞文 103326804 春の野ゝしけき草はのつまこひにとひたつきしのほろゝとそなく 000026805 きのよしひと 103426806 秋のゝにつまなきしかの年をへてなそわかこひのかひよとそなく 000026807 みつね 103526808 蝉の羽のひとへにうすき夏衣なれはよりなむ物にやはあらぬ 000026809 たゝみね 103626810 かくれぬのしたよりおふるねぬなはのねぬなはたてしくるないとひそ 000026811 よみ人しらす」135オ 103726901 ことならは思はすとやはいひはてぬなそ世中のたまたすきなる 103826902 おもふてふ人の心のくまことにたちかくれつゝ見るよしも哉 103926903 思へともおもはすとのみいふなれはいなやおもはし思ふかひなし 104026904 我をのみ思ふといはゝあるへきをいてや心はおほぬさにして 104126905 われを思ふ人をおもはぬむくひにやわか思ふ人の我をおもはぬ 000026906 一本ふかやふ 104226907 思ひけむ人をそともにおもはましまさしやむくひなかりけりやは 000026908 一本よみ人しらす 104326909 いてゝゆかむ人をとゝめむよしなきにとなりの方にはなもひぬ哉 104426910 紅にそめし心もたのまれす人をあくにはうつるてふなり 104526911 いとはるゝわか身はゝるのこまなれやのかひかてらにはなちすてつゝ」135ウ 104627001 鴬のこそのやとりのふるすとや我には人のつれなかる覧 104727002 さかしらに夏は人まねさゝのはのさやくしもよをわかひとりぬる 000027003 平中興 104827004 逢事の今はゝつかになりぬれは夜ふかゝらては月なかりけり 000027005 左のおほいまうちきみ 104927006 もろこしのよしのゝ山にこもるともをくれむと思我ならなくに 000027007 なかき 105027008 雲はれぬあさまの山のあさましや人の心を見てこそやまめ 000027009 伊勢 105127010 なにはなるなからのはしもつくるなり今はわか身をなにゝたとへむ 000027011 よみ人しらす」136オ 105227101 まめなれとなにそはよけくかるかやのみたれてあれとあしけくもなし 000027102 おきかせ 105327103 なにかその名の立事のおしからむしりてまとふは我ひとりかは 000027104 いとこなりけるおとこによそへて人のいひけれは 000027105 くそ 105427106 よそなからわか身にいとのよるといへはたゝいつはりにすく許也 000027107 題しらす さぬき 105527108 ねき事をさのみきゝけむやしろこそはてはなけきのもりとなるらめ 000027109 大輔 105627110 なけきこる山としたかくなりぬれはつらつゑのみそまつゝかれける 000027111 よみ人しらす」136ウ 105727201 なけきをはこりのみつみてあしひきの山のかひなくなりぬへら也 105827202 人こふる事をゝもにとになひもてあふこなきこそわひしかりけれ 105927203 夜ゐのまにいてゝいりぬるみか月のわれて物思ころにもある哉 106027204 そへにとてとすれはかゝりかくすれはあないひしらすあふさきるさに 106127205 世中のうきたひことに身をなけはふかき谷こそあさくなりなめ 000027206 在原元方 106227207 よのなかはいかにくるしと思覧こゝらの人にうらみらるれは 000027208 よみ人しらす 106327209 なにをして身のいたつらにおいぬ覧年のおもはむ事そやさしき 000027210 おきかせ 106427211 身はすてつ心をたにもはふらさしつゐにはいかゝなるとしるへく」137オ 000027301 千さと 106527302 白雪の友にわか身はふりぬれと心はきえぬ物にそありける 000027303 題しらす よみ人しらす 106627304 梅花さきてのゝちの身なれはやすき物とのみ人のいふ覧 000027305 法星にし河におはしましたりける日さる山 000027306 のかひにさけふといふことを題にてよませ 000027307 たまうける みつね 106727308 わひしらにましらなゝきそあしひきの山のかひあるけふにやはあらぬ 000027309 題しらす よみ人しらす 106827310 世をいとひこのもとことにたちよりてうつふしそめのあさのきぬなり」137ウ 000027501 古今和歌集巻第二十 000027502 大哥所御哥 000027503 おほなほひのうた 106927504 あたらしき年の始にかくしこそちとせをかねてたのしきをつめ 000027505 日本紀にはつかへまつらめよろつよまてに 000027506 ふるきやまとまひのうた 107027507 しもとゆふかつらき山にふる雪のまなく時なくおもほゆる哉 000027508 あふみふり 107127509 近江よりあさたちくれはうねのゝにたつそなくなるあけぬこのよは 000027510 みつくきふり 107227511 水くきのをかのやかたにいもとあれとねてのあさけのしものふりはも」138ウ 000027601 しはつ山ふり 107327602 しはつ山うちいてゝ見れはかさゆひのしまこきかくるたなゝしをふね 000027603 神あそひのうた 000027604 とりものゝうた 107427605 神かきのみむろの山のさかきはゝ神のみまへにしけりあひにけり 107527606 しもやたひをけとかれせぬさかきはのたちさかゆへき神のきねかも 107627607 まきもくのあなしの山の山人と人も見るかに山かつらせよ 107727608 み山にはあられふるらしとやまなるまさきのかつらいろつきにけり 107827609 みちのくのあたちのまゆみわかひかはすゑさへよりこしのひ/\に 107927610 わかゝとのいたゐのし水さとゝをみ人しくまねはみくさおひにけり」139オ 000027701 ひるめのうた 108027702 さゝのくまひのくま河にこまとめてしはし水かへかけをたに見む 000027703 かへしものゝうた 108127704 あをやきをかたいとによりて鴬のぬふてふ笠は梅の花かさ 108227705 まかねふくきひの中山おひにせるほそたに河のをとのさやけさ 000027706 この哥は承和の御へのきひのくにの哥 108327707 美作やくめのさら山さら/\にわかなはたてしよろつよまてに 000027708 これはみつのおの御へのみまさかのくにのうた 108427709 みのゝくに関のふち河たえすして君につかへむよろつよまてに 000027710 これは元慶の御へのみのゝうた 108527711 きみか世は限もあらしなかはまのまさこのかすはよみつくすとも」139ウ 000027801 これは仁和の御へのいせのくにの哥 000027802 大伴くろぬし 108627803 近江のやかゝみの山をたてたれはかねてそ見ゆる君かちとせは 000027804 これは今上の御へのあふみのうた 000027805 東哥 000027806 みちのくのうた 108727807 あふくまに霧立くもりあけぬとも君をはやらしまてはすへなし 108827808 みちのくはいつくはあれとしほかまの浦こく舟のつなてかなしも 108927809 わかせこを宮こにやりてしほかまのまかきのしまの松そこひしき」140オ 109027901 おくろさきみつのこしまの人ならは宮このつとにいさといはましを 109127902 みさふらひみかさと申せ宮木のゝこのしたつゆはあめにまされり 109227903 もかみ河のほれはくたるいな舟のいなにはあらすこの月許 109327904 君をゝきてあたし心をわかもたはすゑの松山浪もこえなむ 000027905 さかみうた 109427906 こよろきのいそたちならしいそなつむめさしぬらすなおきにをれ浪 000027907 ひたちうた 109527908 つくはねのこのもかのもに影はあれと君かみかけにますかけはなし 109627909 つくはねの峯のもみちはおちつもりしるもしらぬもなへてかなしも 000027910 かひうた」140ウ 109728001 かひかねをさやにも見しかけゝれなくよこほりふせるさやの中山 109828002 かひかねをねこし山こし吹風を人にもかもや事つてやらむ 000028003 伊勢うた 109928004 おふのうらにかたえさしおほひなるなしのなりもならすもねてかたらはむ 000028005 冬の賀茂のまつりのうた 000028006 藤原敏行朝臣 110028007 ちはやふるかものやしろのひめこまつよろつ世ふともいろはかはらし」141オ 000028301 家々称証本之本乍書入以墨滅哥 000028302 巻第十 物名部 000028303 ひくらし つらゆき 110128304 そま人は宮木ひくらしあしひきの山の山ひこよひとよむなり 000028305 在郭公下 空蝉上 000028306 勝臣 110228307 かけりてもなにをかたまのきても見むからはほのほとなりにしものを 000028308 をかたまの木友則下 000028309 くれのおも つらゆき 110328310 こし時とこひつゝをれはゆふくれのおもかけにのみ見えわたる哉 000028311 忍草 利貞下」142ウ 000028401 をきの井 みやこしま 000028402 をのゝこまち 110428403 をきのゐて身をやくよりもかなしきは宮こしまへのわかれなりけり 000028404 からこと 清行下 000028405 そめとの あはた 000028406 あやもち 110528407 うきめをはよそめとのみそのかれゆく雲のあはたつ山のふもとに 000028408 このうた水の尾のみかとのそめとのより 000028409 あはたへうつりたまうける時によめる 000028410 桂宮下」143オ 000028501 巻第十一 000028502 奥菅の根しのきふる雪下 110628503 けふ人をこふる心は大井河なかるゝ水におとらさりけり 110728504 わきもこにあふさか山のしのすゝきほにはいてすもこひわたるかな 000028505 巻第十三 000028506 こひしくはしたにを思へ紫の下 110828507 いぬかみのとこの山なるなとり河いさとこたへよわかなもらすな 000028508 この哥ある人あめのみかとのあふみのう 000028509 ねめにたまへると 000028510 返し うねめのたてまつれる」143ウ 110928601 山しなのをとはのたきのをとにのみ人のしるへくわかこひめやも 000028602 巻第十四 000028603 思てふことのはのみや秋をへて下 000028604 そとほりひめのひとりゐてみかとをこひたて 000028605 まつりて 111028606 わかせこかくへきよゐ也さゝかにのくものふるまひかねてしるしも 000028607 深養父こひしとはたかなつけゝむことならむ下 000028608 つらゆき 111128609 みちしらはつみにもゆかむすみのえの岸におふてふこひわすれくさ」144オ 000028701 此集家々称雖説々多且任師説又加 000028702 了見為備証本書之 000028703 近代僻案之輩以書生之失錯称有 000028704 識之秘説不可用之 000028705 戸部尚書」144ウ -------------------------------------------------------------------------------- 本ファイルは、以下に改変を加えて成したものである。 http://www.takachiho.ac.jp/~eshibuya/koda01.html